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馴染んだ店で。

毎晩酒を飲んでいる。
自宅での晩酌は、まずはエビスの栓を抜く。
その日の気分でときどき黒ラベルになったり
一番搾りになるときがある。柿ピーをつまみに
一本空けたら、豆腐や油揚げをつまみに
日本酒や焼酎をだらだらと。晩秋から冬を迎える
ようになると毎晩鍋の日がつづく。
湯豆腐だったり油揚げと大根だったり、
ひとりで梅安さんの気分になって杯を重ねている。
週に二日か三日ほどは外へ飲みに出ている。
若いときはあちらの店にこちらの店に、旨い酒があると
聞けば、足を運んでいたけれど、この歳に成ると、
気のおけない、馴染みの店だけあれば良い。
馴染みの店は合わせて六軒。もう十年の上を越える
付き合いの店が二軒有り、だらしのない酔っ払いを
長々見守ってくれたものと感謝しているのだった。
ときどき別の町で酒を飲むことがある。
隣の須坂市の鰻屋へ出かけたり、松本市の焼き鳥屋へ
出かけたり、いつもの縄張りを外れて飲むのも、
新鮮な気分になって好い。
小さな城下町、上田が好きで、年がら年中足を運んでいる。
足繁く通っているうちに、顔を覚えてもらった店もいくつか
出来た。飲み屋が三軒に蕎麦屋が二軒、寿司屋が一軒、
どこも気さくな雰囲気でくつろげるのだった。
仕事がらみの知り合いに、おなじくときどき上田へ酒を
飲みに行くかたがいる。そのかたに「かぎや」という店を
勧めていただいた。この夏の始まりの頃、足を運んでみたの
だった。
上田駅を出て、まっすぐの通りを上がって行く。
みすゞ飴の飯島商店の、石造りの趣きの有る店舗の前を過ぎ、
セブンイレブンの在る、中央二丁目の四つ角を渡り、
長野銀行の前を過ぎて、中央三丁目の一つ手前の信号を
左に曲がって行った先の小路を右に曲がると、ひっそりと
在った。入り口を入ると、右手に六席のカウンター、
左手に四人掛けのテーブルがふたつ。奥には広い座敷が
あるようで、地元のおじさんとおぼしきお客が、
つぎつぎと入っていった。
カウンター越しの厨房ではご主人と息子さんが料理を作り、
お母さんと美しいお嫁さんがお運びと洗い物をしている。
寡黙なご主人と息子さんと、明るく客あしらいをしてくれる
お母さんとお嫁さんの家族の雰囲気が好く、
好い店を教えていただいたと、上田詣でのたびにおじゃまを
するようになったのだった。

初さんま馴染みの店がひとつ増え。








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