上田へ久しぶりに。
久しぶりに上田へ出かけた。小さな城下町の風情が好きで、
ひと月に二、三度は訪れているのに、十月は休日のたびに
用事があって、なかなか来れなかったのだった。
別宅に荷物を置いてから、甲田理髪店で散髪をしてもらう。
さっぱりと髪を切ってもらったら、ぶらぶら薄暮の通りを
上がって行って、「かぎや」の暖簾をくぐった。
お父さん夫婦と息子さん夫婦が営むこの店は、気さくで
温かな雰囲気が好く、いつ来ても地元のお客で賑わっている。
お通しのひじきの煮物を突っつきながらスーパードライを
飲み始めれば、テレビでは日本シリーズの第六戦、早々に
筒香がソロホームランを放って幸先がいい。長野出身の
牧秀悟が入団してから、ずっとベイスターズを応援している。
ぜひとも今夜日本一に輝いてもらいたいのだった。
くじらの竜田揚げをつまみに、いいちこのロックを飲んで
いると、奥の座敷から、せいやせいやと掛け声が聞こえてきた。
この日は上田真田まつりがあったから、打ち上げの宴の賑わいと
察しがついた。
好い加減で酔っ払って、ローソンで明日の朝食を買って別宅に
戻ったら、トリスの水割りを飲みながら日本シリーズの続きを観た。
ベイスターズの日本一に杯が進みすぎてそのままつぶれた。翌朝、
朝食を済ませてから、上田市立美術館で開催されている、
山本鼎版画大賞展に出かけた。日中の風も冷たくなって、秋の
深まりを感じるようになった。今年は夏の暑さが長引いたせいで、
秋がいきなり来た感が否めない。おかしな陽気に体がついて
いけないのだった。ゆっくりと百五十点余りの作品を観て
美術館を出ればちょうど昼どき、そのまま蕎麦屋の塩田屋に
向かった。暖簾をくぐってビールを飲みながら眺めれば、
壁に貼られた、
「新蕎麦が出回ってお蕎麦が一段と美味しくなりました。」の
台詞が嬉しい。お通しに出された小鉢五品でビールと燗酒を二本、
角の立った冷たいもりで締めたのだった。別宅に戻って昼寝から
覚めた夕方、長野に戻って駅前の馴染みの飲み屋へ行ったら、
暖簾が出ていない。しばらくして気がついた。今日は祝日だった。
馴染みの店はどこも開いてないなあ。諦めて家路をたどったこと
だった。
新蕎麦の知らせ嬉しや酒二合。