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松茸詣でに上田まで。

上田の町が好きで、ときどき訪れている。
上田駅のお城口を出て、松尾町の信号を左に曲がると、
桂旅館という古びた宿が在る。その外観からは
想像がつかないが、じつはイタリアンの評判の
良い宿なのだった。
秋になると、松茸のイタリアンを提供しているということで、
友だち八人と松茸詣でに足を運んだ。
日曜日の昼どきにおじゃまをすれば、愛想の好い
女将さんが迎えてくれた。料理を作るのは
女将さんの息子さんで、とても上質な松茸が
手に入ったといい、松茸のスープから
まるまる一本の蒸し焼きに、リゾットに,
自家製の優しい味わいのコンソメスープをもとにした
料理がつづく。息子さんはソムリエの資格を
持っていて、ワインを所望したら、あれこれいろいろ
並べてくれる。日本酒は、上田の岡崎酒造さんの
亀齢を提供していて、地元の銘酒が酌めるのも
ありがたいことだった。
旅館は創業して36年という。ご先祖さんが別の地で、
別の商売をしていたときの、江戸時代からの建物を
移築して、あちこち手を加えて使っているという。
旨い酒を交わしながら、つぎつぎと出てくる松茸料理に
腹がいっぱいになり、最後の松茸を添えたステーキは、
とても入らず、同行した年下の友だちに食べてもらった。
松茸のイタリアンは初めての経験だったから、
新鮮な味わいにまこと満足をしたのだった。
この日は、長野市川中島町で幻舞を醸すお蔵さんの、
千野さんご夫妻も同行していただいた。
食事を終えて腹ごなしに、千野さんご夫妻と
柳町にある岡崎酒造さんまで訪ねて行った。
千野さんの幻舞も、岡崎さんの亀齢も、
跡取り娘さんが杜氏を務めている。
その味の好さに、すっかり手に入りづらい銘柄に
なっているのだった。岡崎さんの御好意で
蔵の中を見せてもらえば、造りの場はきれいに
清掃されていて、こざっぱりと気持ちが好い。
石高は500石といい、これ以上増産する気は
ないというから、無理のない姿勢で造りをしていると
うかがえた。
蔵見学の礼を述べて、通りを下って行けば、時刻も
薄暮の頃となってちょうどよい。
ふたたび同行した友だちと、駅前の幸村で合流して、
二次会と相成った。
けれど、昼間の松茸がまだこなれず、
ろくろく料理も頼まぬまま日本酒の杯を重ね、
記憶をなくしたのだった。
桂旅館、またイタリアンを頂きながら、
おじゃましたいことだった。

腹くちい老舗旅館の松茸に。


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