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塩田平のお蔵さんへ。

上田市街地から別所線に揺られてしばらく行くと、
のどかな塩田平の田園風景が広がっている。
その塩田平の中に、つきよしのを醸す若林醸造が在る。
五月、新酒会の蔵開きに足を運んだのだった。
創業は明治二十九年で、百二十年余りの歴史がある。
昭和の時代になって日本酒の売り上げが落ち込み、
昭和四十四年からは他の製造会社に委託して、酒を
造ってもらうようになったという。
それからは甘酒を作ったり、近隣の農家の果物で
ジュースを作ったりして商いをつづけていた。
四代目の現社長が、廃業を考え始めた頃、それまで
酒造りとは無縁だった次女の真実さんが、お蔵を
引き継ぐ決意をしたのだった。
酒造りを学ぶために、同じ上田市内に在るお蔵に勤め、
三年間の修業を経て、杜氏として戻ってきたのが八年前
のことだった。
実に四十七年ぶりに、自社での作りが復活したのだった。
酒米は地元の契約農家に作ってもらい、四年前からは
塩田平の有機栽培米も使っているという。
お蔵への設備投資をして、酒質の向上を図り、
昨年と今年、アメリカで開かれた大規模なコンクールで
最高賞を受賞した。
そして先ごろ行われた全国新酒品評会で、初めて金賞を
受賞したのだった。
今年の新酒会も、つきよしのの愛飲家がたくさん訪れて、
母屋の大広間で、蔵元御家族皆さんが迎えてくださった。
着物姿の真実さんは、杜氏として、母親としての
貫禄がまたいちだんと増した感がある。
社長の挨拶のあとに、にぎにぎしく乾杯をして、
いろいろな種類のつきよしのを次々と利いてみる。
この銘柄は香り少なく少し太めの味わいが印象的で、
同行した友だちと、あれこれ好みを語りながら杯を重ねた。
テーブルには、山菜の天ぷらに唐揚げに茄子の
揚げ浸しに稲荷ずしに岩魚の塩焼きなど、真実さんの
お母さん手作りの料理がずらっと並ぶ。
気合の入ったもてなしが嬉しくて、旨い酒と料理を堪能
した。同席した見知らぬかたとも会話が進み、おおいに
盛り上がったのだった。
閉会して、みんなと駅へ向かっていけば、暑さの緩んだ
風が心地好い。楽しく、そして温かいひとときを頂いて、
蔵元御家族に感謝したことだった。

夏きざす塩田の酒と風に酔い。





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