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上田の中華屋で。

上田へ出かけた。市立美術館で、画家、山下清の
作品展が開かれているのだった。
駅前から美術館までの間に、天神商店街がある。
クラフトビールの天神ブリュワリーに、焼き肉の
鮮烈ホルモンに焼き鳥の明治屋と、ここから。
老舗の、鰻の若菜館と馬肉うどんの中村屋と、
とんかつの一力と、それぞれ訪れたことがあり、
どこも旨い。そこに混じって、中華屋モリタが在る。
間口の狭い年季の入った店構えは、以前から気になって
いたものの、まだ足を踏み入れたことがなかった。
美術館へ行く前の昼酒に立ち寄ってみたのだった。
扉を開けるとサラリーマンが二組、昼飯を食べている。
外観同様、店内も昭和の落ち着きがある。
奥のテーブルでは、野球帽をかぶったおじいさんが、
スーパードライと紹興酒を飲みながら腑抜けていた。
ビールを水がわりに紹興酒ですか。
おじいさん、昼間から素敵です。
品書きを開いてみれば、麺類とご飯ものと一品料理、
どれも値段が手頃で好い。しかも麺は自家製麵とある。
家族で営む店で、厨房でお父さんとお母さんと
息子さんが料理を作り、お嫁さんがお運びをしている。
壁に貼ってある古い新聞の切り抜きは、開店当時の
ものだった。昭和43年創業で、今年で55年を迎える。
新聞の写真を見ると、かつてこの通りは、
ニューパール通りと呼ばれていた。お嫁さんに尋ねたら、
ニューパールという映画館が、中村屋の向かいに
在ったという。ビールは、アサヒとサッポロとキリンを
揃えている。
辛味の効いた揚げワンタンをつまみに黒ラベルを
飲んでいたら、おじいさんの友だちのおじさんが
入ってきて、一緒に飲み始めた。厨房からお母さんが
出てきて、餃子食べる?とおじいさんに尋ねながら、
漬け物を出していた。
うん。それと野菜炒めもちょうだいとおじいさんが
答える。しばらくすると、お父さんがやって来て、
またなにやらつまみを出しながら、おじいさんの友だちに、
どう、景気は?と話しかければ、
ぜんぜんだめだよー。駅前で待っていても、だーれも
乗らないんだもんとこぼす。
タクシーの運ちゃんで、夜勤明けの昼飲みと察しがついた。
お父さんの服や前掛けに白い粉がついていて、
麺はお父さんが打っているのだった。
家族で営んでいて、だらしのないヨッパに優しい店は
間違いがない。好い店だのおと思いながら、
ウーロンハイを頼んだら、なかなか濃い目の味だった。
あっさりと優しい味のラーメンで締めて、次回は
焼きそばかな。
再訪が楽しみなことだった。

長閑なり酔って腑抜けのじいさんと。








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