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別所温泉のそば久さんで。

上田の別所温泉に出かけた。小さな温泉町の
静かな風情が好きで、ときどき訪ねているのだった。
別所線の二両編成の電車に揺られて30分。
途中下車をして、塩田平の田園風景を眺めながら
歩いて行こうかと思ったものの、この日はあまりに
暑すぎた。炎天下にやられてぶっ倒れたらまずいと、
思いとどまった。駅を出て坂道を上がって行くと、
お昼を知らせるチャイムが鳴り響いた。
道端の紫陽花がまだ見ごろの彩りで咲いていた。
足場が組まれ、青いシートのかかった相染食堂の入口から、
どんぶり飯をほおばっているおじさんが見えた。
外湯の大湯に行けば、風呂代が200円。安すぎて
来るたびに恐縮してしまう。
汗を流して蕎麦屋の昼酒に向かう。
以前、別所温泉に暮らす飲み友だちが、そば久さん
美味しいですとブログに載せていた。
今年の正月明けにうかがったら、あいにく定休日で
ふられた。そのときは、北向観音の参道沿いの蕎麦屋、
だるま家に行ったけれど、そこも年配のご夫婦が営む
好い店だった。坂道を下ってそば久へ伺うと、
白い紫陽花の先の玄関口に暖簾が見えた。
サンダルを脱いで室内に入ると、20畳ほどの座敷に
4人掛けの座卓が六つ。広い窓越しに庭が見えて、
田舎の親せきのお宅に来たようで、気分がおちつく。
品書きを見ればビールはスーパードライの中瓶と
エビスの中瓶。エビスの方が値が張るのに、
ともに650円。なんとも価格が大雑把で好い。
日本酒は長野の地酒をそろえている。純米やそれより
値の張る純米吟醸も一律700円。
なんとも価格が大雑把で好い。酒を頼むと
そのたびに焼き味噌をつけてくれるというから、
良心的なことだった。
焼き味噌と漬け物をつまみにエビスを飲んでいると、
ぽちぽちお客がやってくる。
別所温泉に来たならば、塩田平の若林さんの月吉野を
酌まなくてはいけない。辛口純米を頼んだら、大ぶりの
ガラスの徳利になみなみ入れて運んできてくれた。
焼き味噌ばかり出してはいけないと思ったのか、
揚げ玉ときざみネギの醤油和えを添えてきてくれた。
そんな気配りも有り難いことだった。
月吉野のきりっと冴えた味わいが、今日の陽気にふさわしい。
ゆるゆると一本空にして二本目を注文したら、こんどは
なめこと蕨のおろし和えを添えてきてくれた。
お気遣いに感謝しつつ、冷たいもりでさっぱりと締めた。
小さな温泉町の、湯と蕎麦酒のひととき。
来るたびに、なんとも好いなあとなるのだった。

月吉野旨し盛夏の蕎麦屋かな。




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