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地震の町を

4月3日から、善光寺の御開帳が開かれる。
コロナ禍で1年延期しての開催だった。
土産物屋も宿坊も、このたびばかりは
人出の流れが読めないという。
宿坊の案内人をしている友だちは、
泊まり客の予約がまだ2組だけといい、
馴染みの蕎麦屋の女将は、
コロナ禍で席数を減らしての営業だから、
売り上げもいつものようにいかないといい、
気持ちが盛り上がらないままむかえることとなる。
蔓延防止措置が解除されて、善光寺に
お客の姿が増えてきた。
7年にいちどの大行事のさなか、
感染者が増えないことを願うばかりだった。
平日の夕方、馴染みのべじた坊でひさしぶりの
一献をしていたら、電話が鳴った。
宮城で酒屋を営む友だちで、
5月の黄金週間に、御開帳にうかがいますとの
連絡だった。
待っています。酌み交わしましょうと返事をして、
ひさしぶりにお会いできるのが楽しみなことだった。
酩酊して帰宅して、ひと風呂浴びて、
締めの寝酒でうとうとして目を覚ましたら、
つけっぱなしのテレビで地震のニュースが流れていた。
福島・宮城で震度6強。
あわてて宮城の友だちに連絡をしたら、
ラインで、悲惨な店内の様子を送ってきた。
酒瓶が冷蔵庫からくずれ落ち、散乱している様子に、
言葉を失った。
昨年の2月の地震でも大きな被害を受けて、
耐震補強工事をした。
それが及ばないほどの惨事に、かける言葉が
見つからない。
11年前の東日本大震災の年、
愛飲する宮城の伯楽星のお蔵さんにおじゃました。
年季の入った建物の、傾いた柱やひび割れた壁に、
一升瓶の残骸に、地震のすごさがうかがえた。
友だち曰く、あのときとは違った、
凄い怖い揺れだったという。
それでも、すぐに営業を再開するといい、
気持ちのつよさに頭が下がるのだった。
天を恨まずとはいうけれど、東北への試練は
お願いです、もう終わりにしてくださいと、
切なくなってしまった。
笑顔の再会を待ちわびる。
その思いが深くなったのだった。

春驟雨地震の町を思いけり。

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