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上田のお蔵さんへ。

毎日日本酒を酌んでいる。
秋の終わりから春にかけて、長野のお蔵さんがたの
丹精込めた酒造りが続く。造りを終えた新緑まぶしい
季節になると、
あちこちのお蔵さんで蔵開きが行われる。
愛飲家のかたに蔵の敷地を開放して、今期の新酒の
数々を振舞ってくれるのだった。
上田市の入り口、下塩尻地区に、沓掛酒造が在る。
上田に暮らす飲み友だちが、蔵開きでボランティアと
して手伝いをするというので、足を運んでみた。
当日の日曜日の昼どき、しなの鉄道に揺られて、
西上田駅に着くと、酒徒の面々がぞろぞろと降りて
いく。
受付で渡された杯を持って門をくぐれば、敷地の中
では、つまみを提供するキッチンカーも来ている。
所狭しと並んだプラスチックケースに、すでに
たくさんの酔客が腰を下ろして杯を交わしていた。
中には地元のおじいさんと思しき人もあちこちに
いて、蔵開きは地元の交流の場でもあるのだった。
倉庫の中ではテーブルに四合瓶がずらりと並び、
ひっきりなしに訪れる客に、ボランティアのみなさん
が酒を注いでいる。友だちに挨拶をして、さっそく
一杯頂いた。
沓掛酒造の創業は、江戸時代の元禄年間、赤穂浪士の
討ち入りがあった頃で、お蔵の歴史は三百年余りと
いう。
長らく「福無量」という地元向けの銘柄を造っていて、
二十年余り前、お蔵の跡取りの兄弟が先代の杜氏の
跡を継いで造りを始めるようになった。
その後、酒販店限定の、「互」という銘柄を立ち上げて、
以来、この二つの銘柄を造りつづけている。
造りに使う水は、上田市の北、標高千二百メートルの
菅平からの流水で、使う米は上田地域の酒米という。
酸と旨味の幅が感じられる味わいで、天ぷらや、やや
油ののった肉料理などが合うかと思う。
兄弟で造りを始めてから、より手をかけた丁寧な作業を
心がけている。同世代の他のお蔵さんとも交流を作り、
良い刺激を受けているのも、味の向上に繋がっていると
いうのだった。
杯を重ねながら眺めれば、年季の入ったお蔵に、高々
そびえる煙突。なだらかな裏山の新緑がまぶしい。
心地よい風が吹く中、清々と新酒が旨いことだった。

三勺の桝なみなみと冷酒かな。





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