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出直し金読本004 国籍をもたない通貨

 日本に住む私たちが普段使っているお金は、云うまでもなく日本円です。ここがアメリカなら米ドル、ユーロ圏ならユーロ、ロシアならルーブル、中国なら人民元が日常的に使われています。その歴史はまだ浅いとはいうものの、それぞれ中央銀行なるものが介在し、国あるいは地域という枠内で統一通貨が発行され、市民がそれを受け入れることで市中流通しているわけです。

 では、私たちが普段使っている言葉はどうかと云えば。お金の場合と同じように、日本ならば日本語、アメリカならば米語、ユーロ圏ならユーロ語、ロシアならロシア語、という風になって良さそうですが、しかし実際にはそうなっていません。

 たとえばユーロ圏では、域内の通貨はいまのところユーロで統一されているものの、言葉は国によって民族によって異なります。さらに云えば、ひとつの国において、たとえばウクライナのように、ウクライナ語が優位な地域とロシア語が優位な地域が共存しているケースもあります。たかだか100年、200年程度の時間では、通貨の統一は出来たとしても、言葉の統一までは不可能ということでしょう。

 言葉や民族と同様、国境と相容れないものがもう一つあります。それは、おそらく永遠に統一されることはないであろう宗教です。たとえばキリスト教には、カトリック系、プロテスタント系、正教会系など、さまざまあります。イスラム教もスンニ派とシーア派に大きく分かれています。いずれも人為的に出来上がった国境を超える存在と見なしてよさそうです。

 お金の話に戻ります。ここに、敵対する国、対立する民族、反目する宗教を超えて、普遍的に価値が認められている通貨があります。それがなにかと云えば、ゴールド(金)です。現在は円やドルといったお金のように、市中流通してはいません。日本でお金として使うには、ドルやユーロと同じように、いったん円に換える必要があります。

 しかし、国際的な視野で眺めると、米ドルの番人として長くFRB議長の要職にあったグリーンスパンが語っているように、「ゴールド(金)は究極の支払い手段」と捉えられています。それはおそらく金が2000年以上の歴史を有する「実物通貨」であり続けているからでしょうし、同時に国籍も民族籍も宗教籍も持たないため、誰もが受け入れられる通貨であるからでしょう。

 そうそう、忘れてはいけません。最近クローズアップして来た仮想通貨(暗号通貨)にも、国籍なるものはありません。その点ではゴールド(金)に似ています。というよりも、仮想通貨(暗号通貨)はゴールド(金)の持つ特性を模倣して出来上がっている面があり、「デジタルゴールド」なる呼び名さえ冠されているようです。ただし仮想通貨(暗号通貨)の歴史はあまりにも浅く、価値の持続性を評価するには早計と云わざるを得ないでしょう。

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