見出し画像

出直し金読本003 歴史の重み

 貨幣史をひもとくと、人類が最初にお金として用いたものは、牛であったり子安貝(宝貝)であったりしたらしいことが分かります。塩とか麦などもお金として用いられたはずです。これらの「原始マネー」は、もちろん地域や共同体によって異なるものの、おそらくは「希少なもの」「貴重なもの」、そして「豊穣を約束するもの」という点で共通していたのではないかと思われます。

 紀元前5000年紀から装飾品として用いられてきた歴史をもつ金が、いつから貨幣としても使われるようになったのか、その実態は定かではありません。おそらくは銅や鉄が貨幣として使われた時代を経て、いつしか「富の保存性」が求められるようになり、錆びついたり腐食したりせず、輝きを保ち続ける金が貨幣の王様になったのではないか。そんなことを妄想したりしています。

 それはともかく、発行者が明示された金貨が歴史の表舞台に登場するのは、紀元前7世紀頃のことです。現在のトルコ西部に存在したリディア王国で作られた通称「リディア金貨」が世界最古のものとされています。品位的には金銀の自然合金で、その色合いが琥珀(=エレクトロン)に似ていたことから、貨幣史における正式名称は「琥珀金貨(=エレクトロン貨)」と云います。

 いずれにしても公式に金貨が発行されたのは紀元前7世紀のことになりますから、貨幣としての金の歴史は2700年と云っても差し支えないでしょう。この時代から金は、装飾品としての顔の他に、もうひとつ貨幣としての顔を持つことになったわけです。以来、金は、21世紀の現在にいたるまで、装飾品でもあり貨幣でもあるという、じつに不思議な存在であり続けています。

 これに対して、第二次大戦後に世界の基軸通貨となった米国ドルが誕生したのは、諸説あるものの18世紀後半の1792年。日本円の誕生は19世紀後半の1871年。基軸通貨ドルに対抗して誕生した欧州統一通貨ユーロは1999年。貨幣史の立ち位置でみれば、まだ新参者です。さらに云えば、既成の中央銀行制度にNO!を突きつけるが如き存在として一気にクローズアップしているビットコインなどの仮想通貨(暗号通貨)に至っては、2009年に誕生したばかりです。

 もちろん歴史がすべてではありません。新しいものには新しい存在理由があります。それはおそらく時代の要請に応えて誕生したものに違いないからです。とはいえ遠い未来のことは誰にも分かりません。この文脈でひとつ確かなことは、金は文明の発祥とともあり、幾多の激動の時代をくぐり抜け、いまなお価値を認められているという事実です。

 歴史の重みは、価値の重みでもあります。

*出直し金読本のアーカイブはこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?