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35歳の学校長が学生から校長になるまで

このマガジンでは、35歳の現在2年目の小学校校長にインタビュー内容を紹介しています。


何がしたいかわからなかった16歳の時の自分

この小学校で働くJoshさん(仮名)は16歳の時にVMBOの卒業を間近にひかえていました。

「私はただのサッカー好きな16歳でした。将来したいことも明確にはなかったんです。ただ、この先のことを考えてキャリアカウンセラーと話をしたら、私が子どもを好きなことや、近所のベビーシッターをした経験から、MBOに進学してTA(Teaching Assistant)を専攻してみるのはどうか。と勧められて。「まぁそれも良いかな?」と思って進学したのが全ての始まりだったかもしれません」

補足しておくと、VMBOとは小学校卒業後に進学する中学校+高校(4年間)のような学校で、一般的には12歳〜16歳までを過ごします。VMBOのイメージとしては「あまり座学の勉強が得意ではない生徒が行く学校」というところでしょうか。Joshさんはやがて16歳になり、日本で言うところの「高校」に進学する時、キャリアカウンセラーの勧めでTA(Teaching Assistant)について学ぶことにしたのでした。

ちなみに、オランダには正規教諭の他にTAという職業があります。このTAにもいくつかの種類(レベル)があって、高等教育で得た修了証書のレベル(どのようなレベルの学問を修めたか)によって、教育活動における責任が異なります。

話はずれましたが、JoshさんはVMBOからMBOに進学し、まずはTAになるための勉強を始めたのでした。

インターンを通して得た「この仕事がしたい!」という気持ち

オランダの高等教育では「インターンシップ」に参加することを強く求められるそうです。もちろんそれは何を学んでいるかにもよりますが、多くの高等教育では、3年次に少なくとも2週間のインターンシップを義務化しているそうです。社会への通過点となる教育の中で、座学だけではなく実際にインターンとして学ぶことも重要だと考えられています。

Joshさんも例外ではなく、MBOの最初の2年の中で小学校において長期間のインターンシップを経験しました。

「インターンシップの中でgroep8(小学校6年生)を指導しましました。そこで感じたんです。この仕事だ!って。インターンを始めて2ヶ月後には、自分のアプローチが生徒の行動をより良い方向へ変えることも出来るんだと実感できるようになっていました。それで、TAではなく正規教諭になることを目指そうと思ったんです」

さらに深い学問へ。正規教諭を目指す。

MBOで2年を過ごし、そのまま小学校教員養成課程のための学校であるPABOへ進学したJoshさん。そこでは本格的な学問と、さらに長時間のインターンシップが待っていました。

「PABOで過ごした3年で、本当に多くの時間をインターンシップに費やしました。18歳の時のインターンシップで、校長が、クラスをマネジメントを主たる責任者として行う機会をくれました。そこでインターン生からTAとして働く機会をもらったんです。それはつまり賃金が発生するということです。そして責任も伴います。PABOの学生でありながら、金曜日だけTAとしてクラス担任として責任ある仕事を任されました(もちろん正規教諭の責任の元で)。その時、自分の中にある「教師になるんだ」というビジョンをより明確に持つようになったと思います。それから21歳の時にPABOを卒業して、すぐに正規教諭として小学校で勤務し始めました」

「自分が本当に教員になりたいかどうかわからない」

そういったモヤっとした気持ちをもつ人に対して、オランダでは機会を与えます。

それはつまり、教師になることを選ぶことも、ならないことを選ぶことも可能だという意味での選択肢です。教職が自分に合っていないと感じる人が教師として働くことは教育にとってもマイナスになり得る...そうであれば、本人がそれをきちんと見定める時間と機会を与える必要があるのではないか。そう考えられています。

それは教師に限らず、どの職業にも言えることかもしれません。職業選択をする前の段階でその現場に入り、自分に向いているかどうかを判断する。
そのためには学生が「お客さん」としてインターンシップを利用していては成り立ちません。また、受け入れる側もある程度の責任ある仕事をインターンに任せる必要が出てきます。
オランダの高等教育でインターンシップが義務化されるのには、そのギャップを経験することもしないことも学生にとっては大切で、インターンシップの経験が、職業における不適合を生み出さないための最善策だと考えられているからかもしれません。

小学校教諭から校長へ。信頼して責任を与えてくれた上司たち。

小学校教諭を約10年経験し、Joshさんはその功績を認められます。そして、校長をやってみないかと言われたのです。

「30歳の坊やに、責任のある校長という役職を与えることは、ある意味学校にとってもリスクです。一般的には小学校教諭から学校現場で順当にキャリアを積み上げる必要があって、校長になるための学問を修める必要もあります。しかし、それは後でも大丈夫だと判断してくれたのです。今思うと、それは私が学ぶ姿勢を忘れない人間だったからでしょう。教師として働く中で、私は自分自身が教育者としてアップデートすることをやめませんでした。その姿勢を信じてくれたのです。当時の僕には「信じて任せてくれる人の存在」が必要でした。自分を成長させるために「君ならできる」「君に任せる」と言ってくれる上の世代の言葉が必要だったのです」

オランダの学校一つひとつは公立であっても私学であっても、多くの場合、教育団体に所属しています。それは、日本の学校の在り方から想像するのは難しいかもしれません。

その仕組みは、日本の私立学校に似ています。時に日本の私立学校には「学校法人◯◯学園」というような教育団体と言える母体があります。オランダでは公立私立にも関わらず、どの学校もそういった「教育団体」に所属しているようなイメージです。

Joshさんが勤めていた学校もまたある教育団体に所属している小学校の1つでした。そして、その教育団体がJoshさんに校長になる機会を与えてくれたのです。

校長になってからも学問を修める努力を続けている

「一般的な順序で校長になっていない私は、校長になってから校長に必要な学問を修めるコースを受講しました。2018年-2020年にかけてHBOmasterを修了して、今はHBOplusを受講しています。私が校長を務める小学校が所属する教育団体は、教師が学び続けるための環境を用意してくれます。私自身が学ぶために仕事を軽減化して、教師がアップデートし続けられる環境を整えようとしてくれます。そして、そんな私の姿勢を見て、教職員もまた自分のプロフェッションをアップデートする、したいという気持ちになってくれるのかもしれません。」

「校長こそ学び続ける姿勢を忘れてはいけない」

Joshさんは明るい笑顔でそう教えてくれます。

「私が教育者としてアップデートを続けることは、教職員のアップデートを促すことに繋がります。そして、学び続けられる環境にいる教職員から教育を受ける子どもたちは、その意志を教師から受け取ることが出来ると信じています。つまり、教師を通して学び続ける子どもたちに成長すると思うのです」

そして、その生徒たちの「学び続ける姿勢」は校長としての自分の姿勢から始まっている。だから、自分は学び続けることをやめない。
Joshさんはそう教えてくれました。

さて、このマガジンでは33歳の小学校長であるJoshさんに迫ります。
興味があれば次の記事も是非お読みください!

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