オランダが抱える"教員不足"の深刻さ
こんにちは!
オランダではもうすぐ夏休み!(私たちが住む地域では)
小国でありながら、この国では混雑を緩和するために地域毎に夏休みの始まりが異なります。
さて、これまで続けてきた学校視察も少し休憩。何故なら、夏休み期間中はだーーーれも学校に出勤しないからです。学校の門は固く閉ざされ、約1ヶ月半の間、学校を訪れる人はいません。
これまで多くの学校視察を続けてきましたが、そこで感じたのは教員不足の深刻さ。特に初等教育でそれが顕著に出ています。
うちの学校は大丈夫なのだろうか?と不安になるくらい
オランダの情報をまとめてくださっている「オランダのニュースと情報「ポートフォリオ」によると、教師不足のために止む無く学校閉鎖を強いられる学校も。私の知り合いのご家庭でも「先生が足りなくて木曜日はホームスクールです」という言葉を耳にしています。
憲法で「学校設立の自由」が認められているオランダですが、同時に教師不足と生徒不足から、学校閉鎖を余儀なくされる学校も出てきているのです。
その波は都市部に顕著で、担任教師が病気になった時に「今日は代替教員を立てることができません」と連絡がくるようなこともありました。その場合、子どもたちは学校へ登校することができません。
また、代替教員を立てることが出来れば良いというわけでもなく、子どもたちに接する教師が毎日コロコロ変わるような状況は、教育の質に大きく影響すると個人的には思います。
子どもと大人の幸福度が高いとされるオランダですが、教員不足が深刻化するこの国に、本当に"幸せ"を求めて移住したいか?
幸せの定義は人それぞれですが、覚悟も必要なのではないかと思います。
flexible teacherとして働くJoshさん
私が先日インタビューをしたJoshさん(仮名)は、ご自身を"flexible teacher"、つまり"柔軟な働き方をする教師"と呼んでいます。
彼の働き方は実にユニークで、
こんな感じで働いています。
要するに、週4日勤務で3箇所に所属しているという働き方なのです。
スケジュールでいくと、
というところでしょうか。
教師の欠員を埋めるためのプラットフォーム開発
Joshさんは元々フルタイムの小学校教師として勤めてきましたが、教師不足があまりにも深刻になり、自分にできることはないか...と勤務形態を柔軟化し、欠員が出た学校に教師を派遣するためのプラットフォームを作りました。
そこにはJoshさんの教育に対する情熱と、今の状況をどうにかしなければいけないという使命感がありました。
今では約2,000の学校がこのプラットフォームに登録していて、そこに属する約5万人の子どもたちがその恩恵を享受しています。
教員免許はあっても、フルタイムで働きたくない人たちの存在
オランダでは教育関係者のburnout、つまり「燃え尽き症候群」が問題になっています。教育者の仕事量は多く、「教師はしんどい仕事だからしたくない」と思っている教職免許保有者が多くいると言われています。
Joshさんは「パートタイマー教師」を希望する人たちをプラットフォームに登録させ、教師の欠員を抱える学校とパートタイマーを希望する教師をマッチングさせています。
教師がパートタイマー化する現実
これを聞いた時、教育現場にいた身としては、とても大きな危機感を抱きました。特に日本の学校現場では、複数担任制でさえあまり浸透しておらず、週3日の教師が担任を持つことは難しいとされる現実もあります。
そして、その現実から「フルタイムで教師をやりたくない」と教職自体を望まない人たちもいます。保育士や看護師も同じ状況ではないでしょうか。
しかし、一方でオランダのあらゆる校種の学校では、基本的に週2〜週3日勤務が当然のこととされ、フルタイマーの教師が多い学校の方が稀だと言う人もいます。
もちろん、オランダだってフルタイマーの教師の数を増やしたいと考えていますが、実際のところそれが難しく、苦肉の策として「教師のパートタイマー化」を進めざるを得ない状況にあります。
一般企業勤務から教師を目指す人を増加させよ
もちろん政府はこの状況を良しと思っていません。よって、教師という仕事の社会的地位を上げるため、賃金を良くするために、策を講じています。
また、一般的な職種に就いている人たちを教師へ転職させるため、教員養成課程在学中の学費を免除したり、社会人として働いてきたこれまでの経歴を単位認定することで、教職課程に属する時間を短くしたりしています。
「今の仕事を維持しながら教員を目指す」ということを可能にするために、週2日は一般企業で働き、2日は教員養成課程で学び、1日は実習生として学校現場で働く(その給料も発生させる)というような選択肢の中で教員免許取得を目指しているような人もいます。
いずれにせよ、教師の数が足りないからと言って、現場の教員でその欠員を補わせるのではなく(それはいずれ燃え尽き症候群になってしまうため)、制度を導入して「教育現場に参入する人の数」を増やさなければいけない。
オランダではそういった方向で政府は動いていますが、一方で、日本はまだまだ「現場の教員で分担して乗り越える」「教師はフルタイムで働くもの」という意識が強いかもしれません。その考えを真っ向から否定するつもりはありませんが、日本ではそれによる教師離職が増えているのも確かです。
この影響はいつ、どのようにして出てくるか
個人的にはこの教師不足の影響が数年、十数年以内に現れるのではないかと思っています。それは子どもたちの学力低下かもしれません。もしくはもっと違ったかたちで表面化されるかもしれません。もしくは、ここから劇的に良い策が導入され、影響を及ぼすことなく済まされるのか。
こればかりは、世界の経済が及ぼす影響や国の政策、もちろんコロナの影響にもよるので、なかなか予測が難しいかもしれません。
しかし、難しいからと言って何もアクションを起こさないのでは、今学校にいる子どもたちの教育が危ぶまれます。
「教師のパートタイマー化」は喜ばしいシステムではありませんが、そうでもしなければ「学校に先生がいない」という状況に陥ります。
「苦肉の策でも講じないよりはマシ」
そのマインドを持って、バランスを取らなければ前に進まないのです。
オランダはこの窮地を乗り越えられるのか
個人的にはもちろん「乗り越えて欲しい」と思っていますが、同時に自分が学校を助けるためにできることは何か。を模索しています。
もっとしっかりオランダ語を学び、学校現場で働くことができるようになればこれはこの国の教育に少しでも貢献できることにつながるかもしれません。ここに住まわせてもらっている以上、自分にできることは何かを常に問い続けたいと思っています。
それは、保護者も同様で「学校で抱えきれない問題は一緒に解決していく」と思っている保護者も私の周囲にはたくさんいます。
この状況を学校任せにするのではなく、学校を取り巻く人々が能動的に行動することで、何とか乗り越えていこうという考えを持った人たちもいます。
いずれにせよ、この状況をオランダが、日本が乗り越えられるのか。
自分にできる範囲のことで、この状況を好転させることに少しでも貢献できるのであれば、それを重ねていきたいと思っています。
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