デンマークの移民1-2:難民受け入れ制度

デンマークはヨーロッパの中でも最も移民・難民の受け入れを厳しく制限している国々の1つです。入口としての難民認定が厳しいのはもちろん、難民認定後も特徴的な政策をとっています。
そして2015年の難民危機以降その厳しさが増すなか、今デンマークの難民受け入れ制度は「統合」から「帰国」へと転換点を迎えています。

そんなデンマークの難民受け入れの現状や制度について紹介し、実際に暮らしていて感じることについても最後に記そうと思います。

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目次
1-1
・パラダイムシフト:統合から送還へ
・難民受け入れの現状
1-2
・難民受け入れのプロセス
・制度と実態の乖離

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難民受け入れのプロセス


デンマークはヨーロッパ全体で決められたプロセスで認定可否を判断し、その後独自の定住プログラムを提供しています。デンマークでの認定が少ない理由や、難民がデンマークで難民申請をしようと考えるかについて、このプロセスからヒントを得られます。

図:refugees.dk HPより引用

デンマークにおける難民申請には3つの段階があります。

段階1:到着
難民はEU諸国の中で最初に入国した国で指紋をとられ、この国以外では難民申請をできません(ダブリン条約)。最初のインタビューは移民局が行います。この際には、申請者はアドバイスを受けず自力で臨むこととなり、ダブリン条約の規定に合った国で申請が行われているかが判断され、これに適合したものが段階2で受け入れ可否の判断の対象となります。
この間申請者は、周囲から孤立した受け入れセンターに滞在し、少額のお金と食糧を提供されます。

段階2:審査
審査では3つのタイプが想定されます。
―申請者の出身国や背景から、明らかに難民ではないと判断される場合
―難民を明らかに排出する状況にあり、プロセスの効率化のために素早く申請が認められる場合(シリアなど)
―段階を経て認定可否を判断する通常プロセス
3つ目の通常プロセスでは、2度目のインタビューや、難民申請専用の裁判所(Refugee Appeals Board)での3名に対するアピールが含まれ、最終的な判断に至ります。アピールでは弁護士をつけることができます。このプロセスは半年から1年にも上ります。
この間申請者は、アコモデーションセンターに移り生活費や職業訓練・言語教育を受けることができます。

段階3-1:拒否
刑務所が運営するリターンセンターに移され、お金や職業訓練を与えられず、数年以内に自主的に帰国するか、送還されることになります。

段階3-2:在留許可獲得
移民局が指定する自治体で3年間の定住プログラムを受けます。様々な要素から居住地は決定されていますが、同じ国や地域の出身者は別々の自治体に分配されることが通常です。
自治体は住居、教育・職業案内所・金銭的支援・支援員の配置などが義務付けされていますが、給付額等の具体的な規定はないため、支援の程度は自治体によって大きく異なります。また、難民は3年間のプログラムの間、他の自治体へ引っ越すことはできません。

デンマークでの申請の拒否が起こるのは、通常プロセス内がほとんどです。難民は身分証明ができない場合がほとんどであることから、彼らの発言内容からのみ可否は判断されています。アピールの際の弁護士や通訳者の技能も重要となります。また、可否の判断を待つ期間は申請者にできることは少なく、予算や支援も減ってきていることが、申請者へのデンマークの魅力を低下させる要因にもなっています。


制度と実態の乖離


以上のように申請者や在留許可を得た難民に対する制度が厳しくなっている背景には、世論や政治の場での難民の増加やそれによる悪影響に対する懸念があります。しかし、デンマーク全体での難民の割合はほんの1%程度で、デンマークの大勢に影響を与えないという意味で「いないに等しい」数しかいません。
また、「人道的配慮による特別在留許可」という申請者が危機に瀕しているという理由以外でも在留を認めるための制度も、デンマークではほとんど機能しておらず、refugees.dkの担当者によると認定が少なすぎるとのこと。
もともと「パラダイムシフト」以前から、国の気質や制度から難民がそれほど多いと言えなかったデンマークで、ヨーロッパ全体への申請者が減少するなか難民の急増は考えにくい状況です。にもかかわらず、難民申請がたった数か月激増したことを受けてここまでの制度変更が加えられるというのはやりすぎと言えるのかもしれません。
デンマークに住む難民たちを個別にみれば、少ない支援の中で努力する様子や、うまく地域に溶け込んだ例も少なくありません。難民危機の際の混乱、ムスリム移民への実態のない恐怖心、統合できない人々というレッテルといった状況が合わさった政治的な過剰反応と言ってよいのではと思います。


#デンマーク #移民

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