デンマークの移民1-1:難民受け入れ制度

デンマークはヨーロッパの中でも最も移民・難民の受け入れを厳しく制限している国々の1つです。入口としての難民認定が厳しいのはもちろん、難民認定後も特徴的な政策をとっています。
そして2015年の難民危機以降その厳しさが増すなか、今デンマークの難民受け入れ制度は「統合」から「帰国」へと転換点を迎えています。

そんなデンマークの難民受け入れの現状や制度について紹介し、実際に暮らしていて感じることについても最後に記そうと思います。
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目次
1-1
・パラダイムシフト:統合から送還へ
・難民受け入れの現状
1-2
・難民受け入れのプロセス
・制度と実態の乖離
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パラダイムシフト:統合から送還へ


まずは、デンマークの難民受け入れのスタンスについて知ってもらいたいです。
そもそも各国の移民・難民を受け入れる政策には、彼らをどのような人々と捉え、最終的にどうしたいのかというスタンスや意思が反映されています。

例えば、昨今の日本の外国人労働者受け入れについて2018年10月29日に安倍首相が
「いわゆる移民政策をとることは考えていない」
「深刻な人手不足に対応するため、真に必要な業種に限り、一定の専門性、技能を有し、即戦力となる外国人材を期限つきで受け入れる」
と説明したことは、まさに日本の外国人受け入れ政策のスタンスを表しているのではないでしょうか。

デンマークでは従来、難民政策は「統合」を意図したものでした。
つまりこれは、難民を難民認定し法制度上受け入れるという段階の次のステップとして、デンマーク社会に馴染み、デンマーク人と同じように暮らせるようにするという、デンマークにおける統合の概念を実現させるための政策が目指されていたということ。
だからこそデンマークでは、後述するような3年間の定住プログラムなどが組まれていたと言えます。

ところが2019年に示された新たな法律では、いわゆる「パラダイムシフト」が起こり、このスタンスが大きく変わりました。パラダイムシフトは移民政策の一連の変化について、第一党であるデンマーク国民党(DPP)や政府が使っている言葉です。
この変化によって政府は、難民を一時的に危機に瀕してデンマークに一時的に滞在し、いずれ母国に戻る人々として位置付けたのです。

具体的な変化としては、
・庇護申請の許可(asylum permit)の文言が「一時滞在を目的とする」となった
・すでに在留している人々の許可が延長されにくくなる
・在留許可は自動的に更新される
・政策名が「統合」から「自助と帰国」に変更
・自主的な帰国に焦点が強まる
・初期に与えられる一時的な住居のあと、定住用の住居が与えられない
・同じ罪の場合の罰がより厳格に
・3年以降の給付の減額
・難民する要因となった祖国の状況が改善し十分安全であれば本国に送還される
などが挙げられます。

これは難民がデンマークに来ることを難しくする以外にも、デンマークで生きていくことを難しくさせることで帰国を促したり、デンマークに難民する魅力やメリットを減らす狙いがあります。

参考:The Local DK
https://www.thelocal.dk/20190221/denmarks-parliament-passes-paradigm-change-asylum-bill


難民受け入れの現状


難民受け入れに厳しいデンマークには、いったいどれくらいの難民がやってきているのでしょうか。
2018年の1年間で、デンマークで難民申請をしたのは約3600人です。そのうち、10月までの約2900人について、デンマークで申請可否を判断されるべきと認められたのは、約2000人(後述するダブリン協定によるもの)。このうち申請が認められたのは約1300人です。月に200-300人程度の難民がやってくるというのは、他のヨーロッパ諸国に比べると少ない数字です。また、デンマークは2015年からUNHCRの第三国定住プログラムによる難民の毎年500人の受け入れを停止しています。

デンマークへの難民申請は、2015年の数か月で急激に増加し最大となりました。難民の増加と、難民の目的地であったスウェーデンが国境を閉ざしたことで、経由地であったコペンハーゲン空港から先に行けなくなりデンマークでやむなく申請をする人が増えたためです。
2015年以降は難民数の減少と政策の厳格化によって急激に数が減少し、現在ではデンマークに在留する特別な意図がある人がデンマークで申請する大半という状況となっているそう。
現在デンマークにおける難民は、在留外国人の3%しか占めているにすぎません。

出身国についても、比率を見るとおもしろいことがわかります。
2015年にはシリア・イラン・アフガニスタン等の危機的状況にある国々からの難民が多数を占め、認定率は85%にも上りました。一般的に言う、真に危険から逃れてきた難民は安全な北ヨーロッパを目指すという傾向に沿ったものです。
ところが2017年には、モロッコなど特定の貧困なグループの難民や、様々な国から小規模な難民(ジョージア・アルメニアなど)の比率が高まるようになり、緊急性は低下しているように見受けられます。

デンマークは申請者数がヨーロッパ全体と比較して大きく減少しており、また移民受け入れに積極的なヨーロッパ諸国(ドイツ・スウェーデン・イタリア)と比べて認定率は低く、イギリス等と同程度ですが、特定の国に対して低いという歴史も持っています。
アフガニスタン・ソマリア・イラクからの難民に対する認定率がドイツやスウェーデンと比べて極端に低いことがわかります。特にイラクについては、ドイツが24%拒否なのに対し、デンマークは88%拒否。ヨーロッパの難民受け入れ制度は、どの国で申請しても同じように判断されることを基礎としているため、この大きな数字の開きには問題があると言えます。

参考:refugees.dk
http://refugees.dk/en/facts/numbers-and-statistics/

#デンマーク #移民

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