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#Blacklivesmatterオランダで再燃する「ズワルト・ピート」問題

※この記事には映画「イージー・ライダー」のネタバレが含まれています。見ていない人は注意!(上記写真はRedditより)

米ミネソタ州ミネアポリスで、黒人のジョージ・フロイドさんが警察官による暴力で殺されたことから発展した人種差別反対デモ。ここオランダでも6月1日にはアムステルダムのダム広場で5千人が結集し、「Black Lives Matter」デモを展開した。

コロナ対策そっちのけのデモ

アムステルダムのデモで当初想定されていた人数は250人だったが、予想を大幅に上回る人たちが集まり、オランダ政府が「コロナ対策」として取り組んでいる「1.5mの距離をあける」措置は無視される状態になってしまった。オランダではこうした措置を無視して集会などを開いた場合、高額の罰金が課されることになっているのだが、このデモに関してはこの措置が適用されず。また、デモで感情的になっている人たちを刺激しないために、警察による介入も避けられた。

この集会に関しては、ツイッターなどで「これまでのコロナ対策の努力が無になる愚行」との批判が続々。この集会にマスクもしないで参加したアムステルダムのハルセマ市長には、「ハルセマにミドルフィンガーを!」などと強い批判も見られた。同市長は、「このような事態は想定していなかった」と弁明している。

その後、デン・ハーグやロッテルダムでも同様のデモが実施されたが、アムステルダムの反省を生かして、広いスペースを確保。それでもロッテルダムでは数千人が集まり、エラスムス橋で人々が密集してしまったため、市長の命令で解散させられることになった。

「虫けら以下」の存在

白人警察官による黒人への暴力――これに対する抗議を私たちは何度見てきたことだろうか。結局、奴隷時代から続く黒人への差別はずっと拭い去れていないし、構造的に黒人がそこから抜け出すのが難しい状態になっている。アメリカの多くの黒人は未だに貧しくて、教育レベルが低くて、彼らが住む地域は犯罪も起こりやすい。

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こういう問題が起こると、私は決まって映画『イージー・ライダー』(1969年、写真はNetflix)を思い出す。この映画は黒人差別を扱ったものではなく、当時ベトナム戦争などで混迷するアメリカ社会に生きる、自由で不自由な若者の姿を描いている。私は高校生ぐらいの時に初めてこの映画を見た時、なぜ主人公の2人が最後に殺されなければならなかったのかが理解できなかった。しかし、大人になってもう少しアメリカのことを知った後に再度この映画を見た時、当時のアメリカでは「長髪の男」が猛烈に差別されていたことを知る。長髪は「反体制」「自由」の象徴だった。

主人公の「キャプテンアメリカ」とビリーが保守的なアメリカ南部に入っていくほど、その差別はあからさまになる。この映画では黒人が出てくるわけではないのだが、会話の至るところで彼らが「長髪の白人」よりもさらに差別されていることが分かる。2人がハーレーダビッドソンで通り過ぎるルイジアナの風景にも、巨大な白人の御殿がある地域と、吹けば飛ぶような掘立小屋が並ぶ黒人の居住区が象徴的に表れる。最後に主人公たちが虫けらのように殺されるのを見るにつけ、当時の黒人たちが「虫けら以下」の扱いを受けていたのが推し量れる。そして、その傾向は今に引き継がれている

「ズワルト・ピート」に見るオランダでの黒人差別

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今回の人種差別反対運動を受け、オランダでも長年の黒人差別問題が再燃している。「ズワルト・ピート」問題だ。ズワルト・ピートとは、日本語に訳すと「黒いピート」。毎年11~12月に子供たちにプレゼントを持ってきてくれる「シンタクラース」の行事に登場する。

シンタクラースは一説には「サンタクロース」の原形になったとも言われており、白いひげを生やした白人のおじいさんなのだが、このシンタクラースのお伴としてぞろぞろと周りを取り囲んでいるのがズワルト・ピートたち。ほとんどが白人のオランダ人による扮装で、彼らは塗料で顔を黒く塗り、アフロヘアのかつらをかぶって、大きな耳飾りを付けている。オランダ人は「ズワルト・ピートは黒人じゃない」と言っているのだが、そのルックスはどうみても黒人。しかも、シンタクラースの家来として船に乗ってやってくる姿は、どうも黒人奴隷を彷彿とさせる。アメリカでこれをやったら「えらいこと」になりそうな雰囲気なのだ。

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このズワルト・ピートが「人種差別に当たる」として、オランダではシンタクラースの時期が近付くと、毎年のように議論が沸き起こる。その議論がだんだん白熱してきたので、ここ数年は「白いピート」やらいろんな色の「カラフル・ピート」が出現したりもしている。しかし、相変わらず「ズワルト・ピートはオランダの伝統」と主張する声も少なくなく、「黒いピート」も健在だ。
 しかし、今回の人種差別反対運動を受けて、ルッテ首相は6月4日、衆議院の席でズワルト・ピートについて再考する考えを示した。2013年の時点では「ズワルトピートは黒いのです!」と言い切っていた首相だが、自国の人種差別問題にもメスを入れざるを得なくなった。首相は、ある「肌の暗い」子供が「僕はピートが黒いから、ものすごく差別を感じている」と言うのを聞いたという。「その時私は思いました。それはシンタクラースの祭りでいちばんあってはいけないことだと」(ルッテ首相)。
 オランダ人が「伝統行事」の習わしを変えたくない気持ちも分かるが、ズワルト・ピートはやっぱり人種差別的。もし、「黄色いピート」というのがいて、絶対に東洋人と分かるようなメイクをして(しかもそれがちょっと屈辱的なルックスで)、国家主催の祭りを闊歩していたら、それは東洋人としてはやっぱり受け入れられないと思う。伝統も時代とともに変化しなければならないだろう

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