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マスクをしないオランダ人、抵抗感はカルバン主義から?

「あなた、どうしてマスクをしているんですか?咳が出るの?」

先月、病院に行った時、マスクを着けていったら、受付でこんな質問をされた。周りを見回すと、なんとマスクを着けているのは私だけ。患者さんも、ドクターも、看護師も、受付の職員も、誰一人としてマスクを着けている人はいない。(もちろん、コロナ患者向けの病棟はみんな完全防備だろうが)

「えーと、咳は出ないんですが、安全のためにと思って……」と答えると、「それはとても良いことですね」と、受付の人。なんでこの人たちはその「良いこと」をやらないんだろう……?

まだら模様のマスク規制

病院でさえこの様子だから、街でマスクを着けている人は当然少ない。現在オランダでマスク着用が義務付けられているのは、電車・バス・トラムなど公共交通機関の中と、アムステルダムとロッテルダムなどの一部繁華街だけである。

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このところオランダでも再び新型コロナウイルスの感染者数が増えているので、「マスク着用を全国で義務付けるべきではないか」との議論が沸き起こったが、今のところはオランダ全土でマスク着用を義務付けず、各都市の裁量に任せる方針となっている。「ウイルスは細かすぎるし、マスク着用の効果は証明されていない」「1.5mのソーシャルディスタンスを保つ方が大事」との見解がこの判断の元になっており、マスクを着けることで妙な安心感が生まれ、1.5mの距離を開けない人が増えることに懸念が示されているのだ。

しかし、私が見る限り、周りのオランダ人はマスクを着けていなくても、ソーシャルディスタンスを全く気にしていない。さらに言えば、ロックダウンの時期に比べると明らかに手洗いも緩くなってきている。ロックダウン中のスーパーマーケットでは、カートや買い物カゴを消毒する専門の職員がいたが、それもいなくなった。今は買い物客が自分で消毒できるように消毒液とペーパーが置いてあるのだが、こまめに消毒している人はほとんど皆無である。

8月5~11日の新規感染者数は4036人で、前週から1400人以上増加している。1日の平均にすると、576人。コロナによって死亡した人は同期間中9人だった。ヨーロッパ各地にバカンスに行っている人たちが帰ってきて、学校や仕事が本格的に再開する9月には、「第2波」の到来が恐れられている。私はマスク着用はマストではないかと思っている。

マスクは「和やか」じゃない

オランダ人のマスクに対する抵抗感は、我々の想像を超えている。「パンツ一丁で歩くより恥ずかしい」らしく、誰に言われなくとも花粉症や風邪の流行時には進んでマスクを着用する日本人の感覚とは全く異なるのだ。

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ある時、オランダ人の義理の父母が私たち親子を訪ねてきた。一緒に近所まで車で移動しようとした時、私は「5人だったら1台の車で行けますよ。私たちの車で行きましょう」と言って、車内で子供たちにマスクを着けさせようとした。すると、彼らは慌てて、「マスクを着けなくちゃならないのなら、2台で行きましょう」と言って、私たちの車に同乗しなかった。私たちにとってマスクを着けることなんて、何てことはないのに……。

あるオランダ人は、電車の中で車掌さんがチケットをチェックしに見回りにきた時、チケットに問題があることが判明し、罰金を払わなければならなかった。その時、彼女はマスクをしていたため、自分の驚きを目だけで表現しなければならないことにたじろいだ。「もう、いつもより2倍ぐらい目を見開いちゃった!」確かに、マスクで口元が隠れているのは、表情に制限を加えるという弊害がある。

ほかのオランダ人にも聞いてみた。オランダ人はなぜマスクを嫌がるのか?

「顔が隠されていると、相手の表情が分からなくて、なんか“ヘゼリグ“じゃないよね」

「ヘゼリグ」――これは、オランダ人が最も大切にしている雰囲気で、他の言語に翻訳するのは難しいと言われているが、敢えて訳せば「ほっこり和やか」みたいな感じだろうか。確かにマスク姿だと表情も半分見えないし、声も篭ってしまってコミュニケーションが半減する感がある。ヘゼリグじゃない。

顔を隠すと、一気に怪しさも増す。「アメリカのジョー・バイデンとカマラ・ハリスを見た?2人とも黒いマスクしちゃって、まるでテロリストみたいだったよね!」

私個人は、マスクはカルバン主義的な性格の濃いオランダ人のカルチャーと合わないのではないかと思っている。「私の生活には何ら後ろめたいものはない」とばかり、カーテンも開けっぱなしにするオランダ人。彼らの開けっぴろげな性格に、顔の半分を蔽うマスクは合わない。

コロナ以前、花粉症や風邪が流行る時期に日本を訪れたオランダ人は、多くの日本人が自主的にマスク姿で歩いているのを見て、異様に感じたに違いない。私が子供の学校の送り迎えで、初夏の朝、太ももを完全に露わにするぐらい短い半ズボンを履いたお父さんたちを見かけたときのように。




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