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夢のアリーナ前列、レニー・クラヴィッツのアムステルダムコンサートで体験

大好きなアーティストのコンサートを最前列で見る――長年、私の人生の「ウィッシュリスト」に入っていたことが、昨夜のレニー・クラヴィッツのコンサートでほぼ実現した。ただいま夜8時半、私は昨夜の夢からまだ覚めきっていない。

早いもの勝ち!欧米のアリーナ立ち見席

日本ではロックやポップのコンサートでもアリーナにパイプ椅子が並べてあるので、アリーナでもチケットを買った時点で席は決まっているのだが、欧米ではアリーナは立ち見で、前の方に行きたければ、当日早く入場すればいい。つまり早い者勝ちだ。

私はこれまで、何度かオランダのロックコンサートに行ったことがあり、いつも「椅子あり」の1階席や2階席で見ていた。アリーナ席だと背の高いオランダ人に埋もれてしまうので、傾斜のついた席の方が確実に舞台をよく見られるからだ。

しかし、「椅子あり」席ではなんと、どんなにノリのいいロックコンサートでも、オランダ人は座って見ている人が多い。立ち上がってヘッドバンギングしていると、「見えないから、座ってちょうだい」と、注意されちゃったりもする。日本では2階席でも総立ちになるので、これには結構驚いた。

世界一ゴージャスな60歳、レニー・クラヴィッツ

で、今回のレニー・クラヴィッツ。私はもう30年ぐらい彼の大ファンなので、1階席や2階席で「傍観」するのではなくて、ぜひともアリーナの前の方で一緒に歌って踊って一体感を味わいたいと思った。私とレニーファンの友人Eさんは、「最前列を狙おう」ということで、今回アリーナのチケットを買った。最前列なら、巨大なオランダ人の壁も関係ない!

こなれたアリーナ前方の常連たち

さて、アリーナの最前列に行くには、開場のどのぐらい前に並べばいいのだろうか…?地元サッカークラブが優勝した際の優勝記念式典とか、希少なヒエロニムス・ボスの作品が世界中から集まる展覧会とか、オランダ人も入場前3時間ぐらいから列を作って待っていたりするのを私は見たことがある(美術展のときは、まだオンラインチケット予約がない時代のこと)。みんな好きなことに関しては意外と根性があるのだ。

念のためネットで調べてみたところ、情報ありました、ありました。「コンサートにもよるが、人気アーティストの場合は少なくとも開場4時間前には並んだ方がいい」とのこと。でも、レニーの場合、中年ファンが多いことが予想されるので、私たちは「そこまで早くなくてもいいんじゃない?」ということで、当日、開場約3時間前の3時半ごろにアムステルダムの会場「Ziggo Dome」に到着した。

コンサート会場前でアリーナ最前列を目指して陣取る人々。いちばん早い人はやっぱり4時間ぐらい前に来たという。

入り口前には、整列して入場できるように、テープで仕切りが作られていた。すでに15人ぐらいの男女がそれぞれテープで仕切られた列のいちばん前に陣取っている。敷物や大きなプラスチックのゴミ袋を敷いて、サンドイッチを食べている人もいれば、4人でトランプを楽しんでいる女子もいる。1人で来て、孤独にずっと座っている男性もいれば、分厚い本を読んでいる人も。みんな手慣れた感じ!年齢的にはやっぱり中年が多く、若い人はあまり見かけない。

私とEさんもネットで事前に「食べ物や飲み物を持って行くべし」との情報を得ていたので、おにぎりやらお菓子やらを持参していた。まだ最前列があいている列があったので、そこに陣取ってビニール袋をお尻に敷き、3時間の「ピクニック」が始まった。

お金で解決する方法

外の気温は17度前後。7月にしては薄ら寒い午後だったが、私たちはおにぎりやおやつを食べながら、おしゃべりを楽しんでいた。そして午後5時ごろ。一般開場よりも前に、入場を許された人々がいた。VIPチケットを買った人たちがいたのだ!

冷たいコンクリートにゴミ袋を敷いて「ピクニック」しながら待つ一般チケットの我々は、時間通りに来てぞろぞろと会場に入っていくVIPな人々を恨めしい気持ちで眺めていたのだった。このコンサートのVIPチケットはどうやら240ユーロだったらしい。一般チケットの3倍ぐらいの値段だ。む~レニーのコンサートで確実に最前列が取れるならそんなに高くもない。うう…この手があったのか……!しかし、VIPチケットで先に入った人たちは100人ぐらいしかいなかったと思う。まだ最前列はいけるかもしれない!

5時ごろから増えてくる観客

そこからさらに待つこと1時間ほど。ようやくチケットチェックやセキュリティの準備が始まった。そして6時30分を少し回ったところで、ついにおじさんが我々の前に現れて説明した。

「これから開場しますが、決して走らないこと」

そして、我々の前に張られていたテープが取り除かれた。
ヨーイ、ドン!

……ではなかった。ここで、セキュリティのおじさんは、ワンコに「待て」をするように、片手を前に差し出した。ワンコになった我々はおじさんの指示に静かにしたがって、その場で待った。みんながちゃんと言うことを聞くことが分かると、おじさんは道を開けてくれた。私たちは、チケットのQRコードをピッとやってもらって、荷物チェックを受けると、みんな競歩みたいに早歩きでアリーナへと向かったのだった。

180㎝級オランダ人女子の壁、「チビ同盟」が誕生

アリーナには、すでに入場していたVIPチケットの人々が最前列を陣取っている。私とEさんは真ん中より少し左寄り――レニーがよくギターを弾きながらやってくるあたり――に狙いを定めて陣取った。最前列はかなわず、前から3列目ぐらいになってしまったが、十分にレニーに近い!

しかし、最前列に1人、背の高いおっさんがいる上、2列目に180㎝級のオランダ人女子が4人ほど壁になっていた。もうこれだけで、ちょっときつい……。

そうこうしているうちに前座の演奏が始まった。若手女性アーティストのDevon Ross。なかなかグルービーなロックが良かったのだが、ボーカルの彼女はまったくマイクの場所から動かないので、オランダ人の壁で見えにくい。

「オランダ人の壁」の間から見るDevon Ross

そんな中、私より2列ぐらい後ろにいたティーンエイジャーの男子が、ちょっとずつ、しかしぐいぐいと私たちを押しのけて、最前列に行こうとしているのに気づいた。どうやら両親と一緒に来ているらしく、近くにいた母親がロシア語らしき言語で、「もっと前に行きなさい!」みたいなことを言っている。

彼は170㎝ぐらいなのだが、彼が前に来ると、私はオランダ人のすき間から見えていたボーカルが全く見えなくなってしまったので、文句を言った。

「あなたが前に来ると、全然見えないんです。私より後ろにいましたよね?」

と言うと、彼の母親が反論した。彼女も私と同じぐらい小さい150㎝そこそこだ。

前のオランダ人たちが大きすぎて、私たちはなにも見えないの。あなたや息子が前に行ったところで、彼女たちにはなんの問題もないんだから」

しかし、私は「長く並んだ人」または「高いチケットを買った人」が優先されることを説明した。「背が高い低いは関係なく、こういうものなのですよ…」と。すると、ロシア人の母親は前のオランダ人をこづいた。

ねえ、この小さい女性を前にしてあげてよ!あなたには全く支障はないでしょう?」

結果は「No」の一言だった。私はもともとそういうつもりはなかったので、特にがっかりしなかったが、このことがあってから、そのロシア人親子にすごいシンパシーを感じ始めた。ティーンエイジャーの息子は後ろに下がり、私のすぐ斜め後ろに立った。

私は彼にきついことを言ってちょっと悪かったな、と思ったのだが、やっぱり彼を前にしてあげるのは嫌だった。でも、コンサートの途中、何度となく彼らとは会話を交わし、「見える?大丈夫?」と、互いにいたわりあったのだった。オランダ人の壁を前に生まれた、ちょっとした「チビ同盟」である。

Let Love Rule

前座の演奏が終わり、しばらくすると、スモークが青いライトに照らされて、夜の霧みたいに立ち込め始めた。そして、ギタリストのシルエットが現れると、大ヒット名曲「Are you gonna go my way」が始まり、レニー登場!オランダ人の壁の間からではあったが、すごく近くなので、顔の肌の感じとか、意外と繊細な彼の手の甲まですごくリアルに見える!ギャー!!

迫力満点!レニーのサービス精神にも直に触れられる感じ!

さらにサービス精神旺盛なレニーは、やっぱり開場の左にも右にも動いて、ときどきは舞台の端にせり出したスピーカーの上に足を載せてギターを弾いたり、観客にマイクを向けたり……さすがの大御所である!!そのリアルな感じ、臨場感、一体感はやっぱりアリーナ前列でしか味わえない

レニーは長いドレッドヘアを獅子舞みたいに振って、ギターを弾きながら熱唱。緑色の皮のズボンのお尻も、筋肉もりもりの胸元も、そして30年前と変わらない声も、彼がいかに訓練しているかを物語っている(彼は最近、健康雑誌などにもフィーチャーされている)。どんなポーズをしても絵になる姿を、アリーナ前列の人々も大いに写真に収めていた。

どんな角度でも絵になる男だ

コンサートの最後の一曲は、お決まりの「Let Love Rule」の大合唱。会場全体が明るくなり、レニーが後ろの方の客席まで歩くのが恒例だ。ああ、もう最後なんだ…!

そのとき突然、私たちの前に立ちはだかっていたオランダ人の壁がなくなった。彼らは最後の曲を聴かずに帰ってしまったのだ。これも日本では考えられないことなのだが、電車や駐車場の混雑を避けて、コンサートを最後まで見ない人というのがオランダでは結構いるのだ。

最後はサングラスを取って熱唱!

私たちは前列に躍り出た。最前列とはいかず2列目だったけれど、前の人は大きくなかったので、急に見晴らしがよくなった。最後の最後にレニーはずっとコンサート中にかけていたサングラスを取って、「Thank you! I love you!」を繰り返した。目じりのしわまではっきりと見えた。彼は最後に力を振り絞っていた。なんとパワフルでゴージャスな60歳だろうか。この素晴らしいアーティストのコンサートをこんなに近くで楽しめたこと、もうすべてに感謝したい。Let Love Rule!サンキュー、レニー!!

バンドのみなさん。ムキムキイケメンが多い。

コンサートが終わり、私はロシア人親子に「楽しんだ?」と聞いたところ、彼らは親指を立てて笑っていた。私とEさんは、レニーに完全にノックアウトされた頭と、5時間立ちっぱなしでヘロヘロに疲れた身体を抱えながら、こぼれたビールでぺたぺたした床を歩いて出口に向かった。

追記

さて、コンサートの写真をFBでアップしたら、友達から「おむつ問題はどうだった?」とメッセージが来た。そう、コンサート前は「トイレは行けるのか」がかなり大きな疑問だったのだ。サッカーの試合などでは、一瞬たりとも経過を見逃したくないために、ビールをガンガンのみながら紙おむつをしている観客もいると聞いたことがある。「紙おむつをしながらコンサートはいやや~」ということで、さすがにおむつはしていかなかった。

開場前に外で並んでいるときは、外に据えられた簡易トイレが使えるので、17時過ぎぐらいに最後にトイレに行っておいた。トイレに行って戻ってきても、周りの人が顔を覚えていてくれるので、同じ場所に戻るのは問題ない。

でも、コンサート会場に入ったら、基本的にアリーナ前列にいる人たちは動かない。コンサートが始まる前には飲み物を買いに行ったり、トイレに行ったりする人もいたけれど、元の場所に戻るのは結構大変そうだった。場所を確保したければ、前座バンドが演奏を始めたあたりからはやっぱり出られないと考えたほうがいい。

結果的に私たちは水分摂取を控えていたので、入場後からコンサートが終わって家に帰るまで、トイレに行かずに済んだ。しかし、あまりに水分摂取が少なかったからか、次の日は頭痛がすごかった。気を付けよう。


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