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学術雑誌のSNSマーケティング

オープンアクセスの場合


少し毛色の違った話を書きます。

オープンアクセスの掲載料金

昨年、論文を投稿して無事アクセプトされ、掲載料を見た時に驚きました。

掲載料がものすごく高かったのです! 
オープンアクセス(読みたい人が無料で本文をダウンロードできるシステム)にすると日本円で60万円ぐらいの金額が請求されると書かれていました。

ScienceやNatureなどの超一流誌にフルペーパーで掲載されるなら、そのぐらい払うのはありかもしれないけど、その時私が出そうとしていたのは、たかだか500語程度の2例報告でした。

もちろん、自分の見つけたものが面白いし世界中の人に読んでもらいたいと思うからこそ、面倒でも英文にして出すわけですが、たった2ページ程度の500語の
短い論文に60万円はないでしょー!

一応、自分の思考を整理する意味も含めて仕事仲間に相談。

友人;でもさ、オープンアクセスにした方が、たくさんの人に見てもらえるんでしょ? 60万なんて広告費用だとおもえばいいんじゃないの?
私:え〜〜〜っ! 広告費用だとしても高すぎでしょー?
友人:そう? だって、そこからまた次の仕事に広がるかもしれないよ?
私:広がらない、広がらない! この論文に60万円払っても金銭的には絶対元は取れないよ! それに、オープンアクセスにしなくても、大学とかに籍がある人は大抵図書館で無料ダウンロードできるし、そうじゃない人も本当に欲しければ20〜30ドル払えば落とせるんだよ。個人はともかく、会社員とかなら経費で落とせるでしょ!

説明しているうちに頭が整理され、私の結論は「この程度の論文の掲載料に60万円はあり得ない」という風にはっきりと固まりました(^ ^)

ではオープンアクセスにしなかった場合は?

気持ちが固まったので、オープンアクセスでない方で申し込むためにもう一度
出版社からのメールを見たのですが、オープンアクセスにしないといくらなのか書いてありません。

わからないので、問い合わせてみたところ、「オープンアクセスじゃない場合は掲載料金は要りません」と言われて、もう一度驚きました。以前は、論文掲載料は大体日本円で一本20万ぐらいはかかるのが相場で、カラー写真が多いと高くなっていたものです。

で、ありがたく無料にしていただき、実際に校正も済んで、オンラインで閲覧可能になりました。ここら辺も、紙の雑誌に印刷されるだけだった時代に比べると、スピード感が全然違います。本当に校正が済んだ数日後にはオープンになる感じです。

自分でSNSで宣伝するよう勧められた!

すると、今度は出版社からまた連絡が来ました。つまり、自分のSNSで自分の論文を宣伝しろというのです。これが面白いことに、どうやって宣伝するか、ご丁寧に例までつけてあります。こんな感じで。

# 掲載1〜2日目は、TwitterやFacebookに掲載情報を載せましょう。
# 3〜4日経ったらまたリマインドしましょう。
# 1〜2週間でもう一度リマインドしましょう。

これにも感心したというか、いろいろ背景を想像してしまいました。きっと海外の研究者なんかはこうやって自分を雇用してもらうチャンスにつなげたりもするんでしょうね。SNSはただですもんね。


これは三方良しかもしれない

オープンアクセスにした場合

オープンアクセスにすれば、著者がある程度前払いするので、出版社にとっては掲載の段階でまとまったお金が入るでしょう。でも、最終的にはどっちが得なのかな?

オープンアクセスにしない場合

オープンアクセスにしない場合は、最初の掲載料は出版社が負担することになります。論文は、全文は読めませんが、最初の何ページかはフリーで閲覧可能です。著者自らがそうやって自分の研究データを宣伝してくれれば、それをみた人が全文読みたくなってその論文を有料で購入すると、出版社にはその度に数千円ぐらいの収入が入るから、それはそれで悪くないのでしょう。で、もしその論文が超話題になりバズれば、世界中の人がどんどんダウンロードするから出版社にとっては大きな収入になるし、そういう論文が増えるとその雑誌の定期購読者も増える。

とすると、実はオープンアクセスにしない方が、出版社にとっては当たった時の収益は大きいのでしょうね。言い換えれば、ハイリスク・ハイリターンなやり方なのかな? とはいえ、私の論文のようなたかだか2ページぐらいのものなら、掲載料といってもたかが知れているだろうから、そんなリスクというほどでもないはずです。

なるほどー。そう考えると、やはり短めの論文なら、オープンアクセスにしないほうが著者にとってはリーズナブルだな、と改めて思いました。

意外な後日談

しかも、この雑誌社は定期的に過去の掲載論文のタイトルを研究者にメールアラートとして送っているらしく、先日、それを見た国内の知り合いから
「あの論文見たよ。今度、研究会であの話をしてくれない?」
と声がかかり、再度驚きました。

事後のマーケティングもすごいな。学術雑誌にもSNSマーケティングの波が来ていて、しかも抜かりないな。この事後のメールアラートがなければ、このような話が来ることもなかったでしょう。

これは雑誌社のみならず筆者にとっても嬉しいことだし、読者(見てくれた人)にとっても有益なこともあるかもしれません。もっとも私は英文メールのほとんどはジャンクメールだと思って捨ててしまってますが・・・(^_^;)

このシステムを採用する雑誌、増えてるんですね

それから1年近く経ち、先日別の論文を別の雑誌に投稿しようとしたら

オープンアクセスにしますか?(掲載料金は約50万円)
違う方にしますか?(掲載料金の表示なし)

とまた聞かれたので、こちらも迷わず掲載料金なしの方を選びました。論文もほとんどオンラインでPDFダウンロードが主流になった最近は、こういう雑誌が増えているんですね。

それにしても、一本の論文に50〜60万円もしなくても、たとえ20万円でも掲載料金をどこから捻出するかというのは、なかなか大きな問題です。病院が出してくれるところならいいですが、年間5〜6本も出したいということになると(そんなに出せる人はあまりいないけど、いなくもない)掲載料金だけでかなりの金額になります。掲載料金の心配なく投稿できるのは、研究費が潤沢な場所に所属していない市井の著者にとってはありがたいです。

それを思うと、最近のこのオープンアクセスの仕組みはなかなかよくできてるな、と改めて思えています。


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