なぜ僕がこうなったのかについての2、3の理由(4)
【一二月二四日 クリスマスイブ、割がいいのでバイトに入る。自分の人生がまだ、始まっていないように思う。】
ちなみにこう感じていた自分はそのまま現在も、残念ながら同じことを、つまり人生が始まっていないと感じている。
このときは、しかしよりによってイブに仕事とはねぇ、と思う気持ちと、イブなんて聞きあきたんだよ、腹黒い商業主義に踊らされるのはもうまっぴらだ、時給マル高のバイトでもしてやれ、てな気分が入り混じっていた。このときは、そうだ、サンタクロースの格好をして、事務所のいすにすわって待機し、注文を電話オペレーターが受け、釜のなかにほおった例のものが焼きあがると僕は、自分の苗字がでかでかと書かれたスクーターに乗って届けたっけな、めりくり、と言いながら。
その時、となりの車線を同じく配達用スクーターに乗って走っていたKは、信号待ちで並んだ時、サンタを何歳まで信じてたか女の子に聞いたことはあるか、と聞いてきた。僕は無いと言い、Kはあると答えた。聞いてみたら面白いぞ、その子のいろんなことがわかるから、とだけ言い残して、Kは左折していった。
なんのことやら、寒風に固まった口元でつぶやいて僕はアクセルを踏んだ。その週末に出た合コンでさっそく女の子たちに聞いてみた。そして、サンタを信じたことがないと言った子と翌々日にデートした。サンタを信じたことがないと言ったことで、その子の何かを信頼したわけではないのだけれど。
【一月二日 年が明けた。昨日は大晦日に騒ぎすぎて元日なのに寝通し。またサークルの連中と飲みつづけだ。酒っていうのは、なんであんなに人を狂わせるのだ。狂わせるという言い方が悪いなら、なんで人を躍らせるのだ。いつも後悔するのに、繰り返してしまう。何度でも。ああ、こんなに遊んでる場合じゃないのに!俺は小説を書きたい。早く原稿用紙の前へ向かえ】
今年の正月だ。この頃は小説を書こうとしていたことをようやく思い出した。バイト三昧の反動で、突然に何か目標を持ちたくなったんだ。まったく噴飯ものだが、小説を書かなきゃという気持ちばかりが前面に出てしまい、行動がともなっていない自分にだいぶいらついている。遊んで楽しむことを、罪のように感じている。今とは大違いだ。
ふいに、天井に埋めこまれている照明が少し明るくなっているのに気づいた。外はすっかり日が暮れていた。日が短くなる速度は長くなるときよりももっと速いように思う。
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