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物語「風鈴」を投稿しました

「風鈴」

和室に入ると、夫は畳のど真ん中で大の字だった。
彼は昼寝をしているようだった。

わたしは持ってきた麦茶と和菓子を二つ乗せたお盆を置いて座り、彼のおなかを見る。

おなかは、実に気持ちよさそうに上下していた。

午後のおやつの時間。
さて、どうしようかとわたしは自分の分をひと口飲んだ。
コップは、汗をじわじわかいている。

部屋は、大きく開けた掃き出し窓から入る風のおかげでわりと涼しい。

夏の始まり。
窓の外、陽光を浴びる庭の草を見るだけで眩しい。目を細めてしまう。

風にそよぐ洗濯物を見て、何か足りないなと気づく。

風鈴だ。
風鈴、出さなきゃ。
去年ふたりで選んだ、金魚が描かれた風鈴。
風鈴の金魚は、夏を通り抜ける風を歌うのだ。

「麦茶だ。香ばしい香りがするね。」
金魚より先に、夫の声が風の中を泳いでやってきた。

***終わり***

読んでくださってありがとうございます。今はエアコン無しで昼寝はできないかな…。

今回の見出し画像です。
「Swim in a dream」

夏になるとなんとなく雨月物語の「夢応の鯉魚」を読んでしまいますね。(でも私が描いたのは金魚…のつもり…)