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単機能好き 2021.3.6

 この世へ、たった一つの使命を持って生まれたものに愛を感じる。
 単機能といわれる道具だ。

 それも「栓を抜くための栓抜き」といった正統派より、「なぜこんなことのために!」と、ほんのり呆れてしまうくらいの用途であるほどくすぐられる。

 それを自覚したのは、友人が「有名デザイナーのだから」の前置きとともにくれた、北欧みやげのフォイルカッターだった。ワインのコルク栓をカバーしているキャップシールを「切る」ためだけの道具である。

 そんなものがなくたって、文房具のカッターでも果物ナイフでも切れる、と言われたらおしまいの薄い存在意義。
 そもそもうちにはソムリエナイフがあるので、フォイルを切りコルクを抜く作業なら、一本でよほどスマートにできる。

 なのにこの有名デザイナーなにがしは、なぜフォイルを「切る」一点にフォーカスしたのか。
 しかも必要以上にカッコいい。
 なんてブツブツ言いながら、ステンレス製のそれをボトルの口に当てて、くるりと回した。

 なんと、滑るような触感! と驚いたらもう切れていた。
 病みつきになりそうな、この多幸感の正体は何なのだろう?

 プロだからだ、と思った。
 一点集中で考えに考え抜いたプロ。たとえどうでもいい作業と言われようが、その一点においては最高を目指した道具だからだ。

 先日、取材先のイタリア料理店で変わった道具を目にした。
 約5センチ四方の板の中央が丸く切り取られ、針金が升目にピンと張られている。

 パスタを切る道具か何か?
 シェフに訊ねると「プンタレッラカッター」と返ってきた。

 ローマ近郊でよく食べられる野菜の新芽で、チコリの仲間。茎の部分を細く割いてサラダなどにするのだが、この「割く」を担う道具だという。

 手で割きゃいいのに、などと言ってはいけない。
 この道具があればレストランでも、大家族の家庭でも、大量のプンタレッラがじゃんじゃん割けるのだ。

 とはいえマシンでなく、茎をポンと押し込んで、反対側から引っ張るアナログな仕組み。素っ気ないほどシンプルなデザインだが、木と金属だけで成り立つこの道具は、楽器のように美しい。
 惚れ惚れしている私に、シェフが言った。

「ズッキーニカッターもあるんですよ。ほら」

 見れば、形は同じでも針金の幅が微妙に、本当に微妙に広い。
 これなら兼用してもよさそうなものだが、ズッキーニはやや太めのほうが絶対おいしいから、味が違うから、というイタリア人の主張が聞こえるようだ。

 大ざっぱなのか緻密なのかわからないが、これもまたやっぱりプロ。それぞれの野菜の、一番の味を追求したプロだ。

 イタリア人ってまぁ……と言いかけて、そういえば日本人だって生姜とわさびではおろし板を換えるなぁ、と思い出した。

 便利な兼用や多機能はいつの時代も人気者だけれど、「たったそれだけ」のために生まれた道具は、多くを持たない分、触り心地であれ味覚であれ人の本能に訴える凄みが違う。
 まったく不器用な、可愛いヤツだ。

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