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遠い風近い風 archive

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現在も連載中のリレーエッセイ『秋田魁新報』の「遠い風近い風」。井川直子のアーカイブ集です。不定期に更新していきます。
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#母

デイ・ドリーム・ビリーバー

『雨上がりの夜空に』『スローバラード』と聞けば、一定の世代には自動的にきゅんきゅんスイッチが入るかもしれない。 後にザ・キング・オブ・ロックと呼ばれることになる忌野清志郎の〝不器用〟と〝懸命〟がせめぎ合うような歌声は、1980年代、日本中の十代の心をかき乱したものだ。 彼自身が、まだ何者でもなかった十代の頃の話。内向的で絵を描くのが好きな少年は、同時に音楽にも夢中になった。 ギターを手に入れ、バンドとやらを始め、勉強そっちのけの息子にお母さんの心配は募る。 そして母は、

中秋の名月

先週は中秋の名月だった。 日頃からよく月を見上げてはいるものの、「次回、中秋に満月が重なるのは7年後」などと言われると、特別感が増し増しになる。 この日、東京の下町で取材を終えると、商店街の古い和菓子屋には『月見団子』の紙が貼られ、長い行列ができていた。 現代でもみんなお団子を供えてお月見をするんだな、と感心した私はと言えば、大人になってからすっかりお団子を食べなくなっていたのだった。 子どもの頃は毎年やってくる、けっこうなイベントだった。 母は月見をとても好んだ。 今に