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ピカソのバレエ『パラード』

先日のEテレで紹介されたバレエ・リュスのお話しの続きです。

ピカソが参加したバレエとして紹介された『パラード』は1917年、パリのシャトレ座初演。
パレードのフランス語訳がタイトルになっています。
バレエ・リュスで初めてピカソが手掛けた作品でもありました。また、この作品のテーマはバレエとは全く違う存在の「サーカス」をテーマにしたものでした。そうした点も大変新しい感覚の作品でした。
振付は映画『赤い靴』でも知られるレオニード・マシーン、"中国人の魔術師”で主演しています。
後に交響曲バレエの振付で知られる彼の振付も大変ユニークなものでした。

いち早くピカソの才能を見出しだディアギレフによってピカソは舞台の仕事のデビューを飾ったのです。
ピカソはこれを皮切りにバレエ・リュスだけでも『三角帽子』『プルチネッラ』『メルキュール』『クァドロ・フラメンコ』の衣裳、美術を手掛けることになります。

『パラード』では番組で紹介された下記の "キュビズム” 風の衣裳、美術のデザインを手掛けました。

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これは "ニューヨークのプロデューサー” という役で、背中に摩天論を背負っています。

番組では「3mもあった」と紹介されていましたが、それは正確ではありません。
見てお分かりのように中にダンサーが入る衣裳ですので、身長による増減はあるものの最大でも2m強程度が最大です。

それよりも、今ほど軽量素材がない時代、非常に重くて動きにくい衣裳だったことを考えると動きの制約が大きかった事が分かるのではないでしょうか。
また、カラーは少し色が薄いですがこちらが参考になるのではないでしょうか。かなりカラフルなのです。

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もう一人のマネージャーは ”フランスのマネージャー"
手にパイプを持っているのがわかります。

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登場人物は下記の通り、中国の魔術師、二人のマネージャー、アメリカン人少女、アクロバットの男女、馬。

魔術師はマシーン自らが踊りました。
メイクや表情も振付けたという点でも新しいことでした。

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この衣裳は後にポスターやプログラムの表紙にもなりました。実際の衣裳は現在はロンドン、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館が所蔵しています。(とても綺麗なだけではなく、デザインの再現性の高さも驚くほどです)

馬、というのは2人の人間が入ったもので(歌舞伎に登場する馬で日本人は割合おなじみかもしれませんね) これは大変な人気となりました。ボルドーバレエ団がパリ公演の際に見た時には観客の一人が息が止まるのではないかと思うほど笑いが止まらなくなり、その笑いを観客が笑うという事もありました。

この場面はバレエの中で初めて音楽がなく、足音だけで踊る場面でもありました。

色は何とピンクでした。
実はこの馬、バレエ・リュスのオリジナルではなくて、当時はやっていた人間が入った馬のサーカス(ちょっと信じられませんが見て見たい・・)に想を得た場面でもありました。

番組で紹介されたようにサティによる音楽はサイレン、タイプライターの音など楽器でない音が「楽器」として使われている点でも斬新でした。

では、どんなバレエだったかというと‥。
台本はジャン・コクトーが手掛け、彼もおなじみだったサーカスをバレエにしたもの。テントの中での興行であるサーカス、テントに入ってもらうためにそのさわりをテントの外で見せていた場面をバレエにするという誰も考えないような内容でした。
結局、誰もお客さんは入らない・・というオチ付ですが、舞台でそこは特に描かれません。

ピカソデザインのアクロバットの男女のユニタードの星をちりばめた柄も素敵です(七夕の日にこちらをあげれば良かったかもしれません)

「アメリカの少女」という役もあり、こちらは頭に大きなリボン、そしてセーラー服。
さらに振付にはタイプを打つ動き(タイプの音のところですね)、ボクシングの動き、カクテルを飲む動き、飲んだくれる様など当時のアメリカ、アメリカ人のパリでのイメージも感じる事ができます。

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1917年初演ですが、「バレエ・リュスの1920年代が始まった」作品という事ができます。
いつでも一歩早いバレエ・リュスなのです。


一部ですが、マシーンが実際に指導して1973年に再現上演されたジョフリー・バレエ団によってものが一番オリジナルに近そうです。

今や当時のヴァニティ・フェア誌の記事もこうして読むことができます。便利になったとつくづく。
それでも調べて番組を作ってくれないのかな、という気持にもなりますけれど‥。






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