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音楽への信頼を感じる〜【Live】東京塩麹『ジャーニー 目黒→横浜→金沢』

 東京塩麹は2013年にスタートしたバンドで、トランペット、トロンボーン、キーボード、シンセサイザー、ギター、ベース、ドラム、パーカッションの8人からなる。金沢21世紀美術館で行われたライブ『ジャーニー 目黒→横浜→金沢』は「旅」をテーマにした作品で、2019年に初演されてから公演を重ねるごとに新しい楽曲が加わるという、いわば一種の「開かれた作品」。金沢公演では、事前に「金沢を作曲する」と題したワークショップと撮影が行われ、そこで生まれた音楽のアイデアが組み込まれたということだ。

 全体は15のセクションから成り、間に休憩などはなくひと繋がりの作品として演奏される。演奏時間は約55分。また、音楽と同時に互いに関連性を持った映像が、3つのスクリーンに投影されていく。いくつかのモティーフが認められたが、例えば「色とりどり、大小様々なドット」「上昇、または下降するアルファベット」「カラフルなテキスタイルのような映像」「文字をモティーフにした映像」などがあった。第1セクションは一種の前奏曲であり、本編のスタートは第2セクションから。ここでは目黒、横浜、金沢の街並みを撮影したものが組み合わされた映像が用いられているが、これが第15セクションでは逆回しで流されるという工夫も見られる。またこの2つのセクションのみヴォーカルが入る。さらに第15セクションにはコーダ的な部分がついていて、そこではGoogle Earthで世界のある場所の街並みがズームアップされたり(その中には金沢21世紀美術館もあった)、さらにそれが高速で移り変わったりといった処理の中で音楽も最高潮に盛り上がってフィナーレを迎えた。

 作曲としてクレジットされているのはシンセサイザーを担当する額田大志。額田は作曲家としてCM音楽や舞台の音楽を手がけるほか、小説家としても活動する。ライブは額田のリードで進行していったが、客席から見たところ、メンバーは楽譜を見て演奏していたのがいわゆる「バンド形態」の音楽としては興味深いところ。調べてみると東京塩麹は、額田が東京藝術大学在学中に結成されたとのことで、おそらく音楽のベースには「クラシック音楽」への「信頼」があるのではないか。バンドのHPには「音の反復と解体、再構築を主軸とし」と記載されているが(明らかにミニマル・ミュージックの方法論が用いられている)、「解体」の手際が非常にスタイリッシュであり嫌味がない。時折りはさまれる2本の管楽器によるセンチメンタルなメロディも相まって、確かに爆音ビートに包まれているのに、何か清々しいような、懐かしいような、余計な澱が流されていくような気持ちにさせられる。作品全体からは非常に「清潔な」印象を受けた。その「清潔感」の源は何だろうと考えていくと、やはり「純粋音楽」というか「音楽の純粋性」に対する信頼から発しているのではないかと思うのだ。
 もうひとつ注目されたのは、高良真剣のパーカッションで、シンセドラムの他に、ヴィブラフォン、トライアングルなどを駆使し、かつ第2セクションと第15セクションではヴォーカルも担当するという活躍ぶり。額田のもつ洗練されたスタイリッシュさと、高良のある種プリミティヴというか素朴さのようなものがうまい具合にミックスされているのが、バンドの個性になっているとみた。

 ゴリゴリの「現代音楽」でもない、しかしやはり「クラシック音楽」の歴史線上から生まれてきたと感じられる東京塩麹。おそらくこの種の音楽に馴染みのない人でも面白く聴けるのではないだろうか。なかなか面白い才能の集まりで、今後の活動にも注目したい。

2022年2月13日、金沢21世紀美術館 シアター21。

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