指揮者ダニエーレ・ルスティオーニが語る二期会『トスカ』

東京二期会『トスカ』を指揮するダニエーレ・ルスティオーニは、「イタリア若手三羽烏」とよばれる指揮者のひとり。三羽烏の中では、日本では特にアンドレア・バッティストーニの評価がうなぎのぼりだが、個人的にはルスティオーニの振るオペラをもっと観たいし、もっと多くの人に彼のオペラを観てもらいたいと思っている。

え?ルスティオーニがイケメンだからだろうって?ええ、そりゃもう、「少女マンガの王子様」ばりのイケメンですとも(写真参照)。でもね、あえて言っちゃうと、私、「指揮者がイケメンだから」って動機で観にいったって全然OKだと思うんです。いいじゃん、とっかかりなんて何でも。要は「劇場に足を運ぶ」ことが重要なんで、イケメン目当てに東京文化会館に来た女子がオペラ好きになるかもしれない。いや、今回の『トスカ』は、それほどすごいプロダクションです。来たらダニエーレのヴィジュアルはもちろんこと、彼が生み出す「音楽」にヤられる。絶対(断言)。

そんなルスティオーニに、『トスカ』のゲネプロ(最終総稽古)前にインタビューする機会をもらいました。『トスカ』について、そして今回のプロダクションについて、この若きマエストロが語る言葉をお届けします。


   イタリア的アイデンティティとしての『トスカ』

『トスカ』は、実はいちばん好きなオペラです。他のプッチーニの作品、例えば『蝶々夫人』や『トゥーランドット』ならばそれぞれ日本や中国の音楽が使われていますし、『ラ・ボエーム』『マノン・レスコー』はフランスが舞台の作品。つまり、純粋にイタリアの音楽ではない要素がある。しかし『トスカ』は違います。ローマが舞台になっている『トスカ』に、プッチーニはイタリア人のエモーションのすべてを注ぎ込んでいる。まさにイタリアのアイデンティティといえる作品なのです。

第1幕の最後と第3幕で鳴り響く鐘の音に耳をすませてください。あれこそ「ローマの街の音」です。それから、第3幕はサンタンジェロ城が舞台になっていますが、今回組まれている屋根のセットは、実際のサンタンジェロ城と同じサイズなんです。お客様はローマにいるような気分になれると思います。

   トスカは強い女?それとも…

トスカは嫉妬深い女性として描かれています。確かにイタリア女性は感情の露出が激しい。日本の方からするとそれは「強い女」にみえるかもしれません。しかし、私の考えでは、「強い女性」というのは、反面とてもデリケートで壊れやすい部分を持っているのです。彼女たちが感情を表に出し、強く自分を主張するのは、実は、自分に愛情とバランスをあたえてくれる「強い男性」を求めているからなのです。

さらに、トスカという女性について、忘れてはいけないことがあります。舞台を観ているとわかりにくいのですが、実際のトスカは二十歳ぐらいの、たいへん若い女性だということです。もしかしたら十代かもしれない。彼女はまだ若く純粋で、世の中のことを知りません。それは、第2幕を観るとよくわかります。彼女はスカルピアが自分に何を求めているのか、彼自身が口にするまでわからなかった。また、拷問室というところで何が行われているのか、カヴァラドッシの絶叫を聞くまでまったく想像もできなかったのです。

   日本でオペラを指揮すること

日本人は、常に200%の仕事をしようとしているところが素晴らしいですね。向上心があり、また私の要求に応えようという前向きな姿勢を持っています。東京二期会とは3年前に『蝶々夫人』を指揮して以来2度目の共演ですが、常に高いレベルのものを創ろうとしているプロ集団だと感じています。

オペラの指揮においてもっとも大切なのは、作曲者の思いや音楽性をいかに伝えるか、ということです。今回ならばプッチーニの「モラル」を全力で表現すること。また、舞台というのは演じる人ひとりひとりの思い、さらにそこに関わるすべてのスタッフの思いが集結して出来上がるもの。指揮者はそれを凝縮させる役割です。今回、1900年に初演された当時のデザイン画を元にした、たいへん伝統的であり、かつインテリジェンスのあるプロダクションを、ここ日本で指揮できることをとても嬉しく思っています。

(2017年2月13日 東京文化会館における共同インタビュー)




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