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【引き寄せあう縁|琉球新報 落ち穂⑤ 2020年9月5日掲載】

(これまでに執筆した記事を振り返っています。)

前回、海外へ活動の場を広げ、新たな市場開拓について触れたが、これらはなにも現代アートだけに特化したことではない。アートを中心に、デザインや伝統工芸など、沖縄のクリエイティブ産業の発展をも示唆している。
 
現在、英国の国立美術館テート・ブリテン「オーブリー・ビアーズリー」展にちなんで、同ミュージアムショップで県出身のデザイナー古堅ちひろと伊是名淳による「ペーパージュエリー」が発売されている。ビアーズリーは、イラストレーター、詩人、小説家で1890年代の英国美術を代表する存在だ。鋭い白黒のペン画は、魔夜峰央や手塚治虫の漫画作品に影響を与え、オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」英訳版の挿し絵を描いたことでも知られている。今回、ペーパージュエリーの美しい切り絵のようなデザインとビアーズリーの作風がマッチして、欧州初の発売となった。
 
背景に、ペーパージュエリーの2012年の英国で開催されたLOOCHOO展参加や 17年の東京での国際的な商談会参加などの積み重ねもある。商談前後の英訳を私が担当させてもらった縁で、昨年渡英する際にバイヤーRさんにフィードバックをもらおうと連絡を取った。不在の彼女に代わり、会ってくれたのはTさんだったが、話してみると彼の友人が県出身アーティスト津波博美さんであった。共通の友人がいることで商談は和やかに進み、Tさんは忘れていたが、博美さんのつてでLOOCHOO展の手伝いをしていたことも明らかになった。
 
そんなお互いが手繰り寄せた人脈と偶然のような必然的なタイミングが重なり、ビアーズリーとペーパージュエリーの「縁」が出来た。このことは沖縄独自の個性やセンスに自信を持ち、少ない資本でも直接働きかけることによって、東京の業者を経由せずに、現地で受け入れられることを十分に実証できたと思う。この一歩から、欧州における沖縄のアートやデザインの更なる展開を期待し、作り手に最大の利益を還元できる県内の支援や体制づくりに発展することを願っている。

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