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大学院講義のネタとしての『あつまれ どうぶつの森』

1. はじめに

2020年3月20日に発売されてから世界中で人気を博している任天堂Switch用ゲームソフト『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森と略)』、かくいう私もハマっております。今回の記事では、『あつ森』を大学院講義の教材として用いたことについてご紹介したいと思います。教材開発等の参考になれば幸いです。

2. 学術的に注目すべきポイント|標準的データ形式

イギリスのBBCニュースは、COVID-19の世界的流行に伴う外出自粛期間において、『あつ森』における魚釣りや虫捕り、家の模様替えやどうぶつたちとの日常的なふれあいなど、一見「生産性のない」と思われるような行動が、世界中の人びとの心を癒す効果を持ったことを指摘しています(元記事)。ただし、今回の記事では、このような『あつ森』の心理的効果ではなく、美術館・図書館・博物館など世界中の文化機関が、自らが所有する文化財の画像データを『あつ森』の世界に取り入れられるようにしたことに注目したいと思います。

日本では、AUTOMATON誌が2020年4月17日に公開した「『あつまれ どうぶつの森』で名画を見ほうだい、着ほうだい。全世界の美術館デジタルアーカイブスをマイデザイン化できる素敵システムができる」という記事などでこの動きが紹介されました。同記事は、アメリカのゲティ美術館がAnimal Crossing Art Generatorというツールを開発し、ゲティ美術館が所有する美術品の画像データを、『あつ森』のマイデザインという機能に取り込めるようなドット絵に変換することを可能にしたことを中心に紹介しています。本家、ゲティ美術館によるツイートはコチラ。

学術的に注目すべきポイントはここからです。このAUTOMATON誌の記事は、Animal Crossing Art GeneratorがIIIF(International Image Interoperability Framework)という国際規格に準拠して公開された画像データであれば何でもドット絵に変換することができる点まで掘り下げて紹介しました。IIIFの技術的詳細などについては専門の論文に譲り(たとえばコチラ)、ここではIIIFのポイントについて、利用者目線で簡単に要約しておきたいと思います。

IIIF登場以前、われわれは世界中の美術館や博物館が所蔵する文化財の画像データをコンピュータ上で閲覧したい場合、それぞれの機関のホームページを訪ね、それぞれが提供する画像ビューアを通して画像を閲覧することが普通でした。つまり、所蔵館が違えば、公開されている画像を閲覧する環境もバラバラだったため、利用者はさまざまな閲覧環境に慣れる必要がありました。これに対し、IIIFの定める形式で画像データが公開されていれば、利用者は、違う場所に所蔵される画像でも簡単にひとつのIIIF画像ビューア上で閲覧・比較できるようになりました。閲覧画面の参考として、オクスフォード大学ボドリアン図書館のブログ記事を紹介しておきます。

このようにIIIFは、画像の閲覧体験を一変させたのです。これはひとえに、世界中で多くの人が使う「標準的な規格」でデータを公開することによって、そのデータがとにかく簡単にさまざまな形で二次利用されやすくなるということを示しています。ゲティ美術館の開発したAnimal Crossing Art Generatorは、IIIF形式で公開されている画像データならとにかくドット絵に変換できる機能を備えているわけですが、これはとりもなおさずIIIFという国際規格のもたらす恩恵に他ならないのです。

3. 授業での利用|二次利用ライセンスの問題と絡めて

このような標準的なデータ形式の利点を踏まえた上で、私は本務校のある大学院講義の教材として、世界中のさまざまな文化機関がIIIFを通じて画像を発信するプラットフォームとして機能している『あつ森』を扱うことにしました。さらに、さきほどご紹介した「標準的なデータ形式」の恩恵に加えて、同講義ではオンラインコンテンツの二次利用についても題材にしました。

Animal Crossing Art Generatorのもうひとつ優れている点は、他機関のIIIF画像をドット絵に変換しようとすると、二次利用にあたっての条件を表記してくれるところです(※完全にオープンな利用を許可している場合には表記されない場合もあります。ゲティ美術館のOpen Content Programに登録されている作品などがこれに該当します)。日本国内でもさまざまな機関が『あつ森』のバーチャル美術鑑賞の場に名乗りをあげましたが、いちはやく画像データをドット絵に変換して発信した機関として、国立歴史民俗博物館の画像をお借りして、ライセンス表記の例を示したいと思います。ちなみに、当該ツイートはコチラです。

国立歴史民俗博物館所蔵の「日本駄右衛門 松本幸四郎」の錦絵を、Animal Crossing Art Generatorを用いてドット絵に変換すると次のような結果を得ます。

松本幸四郎

この最下段に「License: 」という項目があり、ここにCreative CommonsライセンスのBY-SA 4.0と表記があります。詳細はリンク先の説明をお読みいただければと思いますが、この「CC-BY-SA」ライセンスは、文化・学術コンテンツの二次利用を促進するための「オープンデータ」のひとつとして広く用いられているものです。

私の講義の教材では、このライセンスで規定されている内容にも注目してもらい、「身の回りにデータがあふれるデジタル時代だからこそ、データを適切に扱う作法を身につけてほしい」との願いを込めて、ゲティ美術館のAnimal Crossing Art GeneratorでIIIF画像を『あつ森』用のドット絵に変換し、標準的なデータ形式の威力と適切なデータリテラシーを実践的に学んでもらう課題を設定しました

4. 講義の成果物

最後に、学生さんによる課題を島に飾った様子を共有し、筆を置きたいと思います。

まずは、実際に『あつ森』をプレイしている学生さんからいただいた写真を公開させていただきます。本人の許諾もいただきました。この画像からは、あたかも自宅からオンライン授業に参加している学生さんの様子が窺えるようです。壁にはゲティ美術館の絵画、床には国立歴史民俗博物館の錦絵が飾ってありますね。

「あつ森画像」①

「あつ森画像」②

「あつ森画像」③

次に、私の島に飾った様子をお見せしたいと思います。まずは、和室から。ちなみに、部屋の隅の行灯は、東洋文庫さんが公開されたマイデザインをお借りしてリメイクしたものです。

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次に、教室風の部屋に飾った作品です。

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本当は、課題としていただいた画像それぞれの雰囲気に合うように島の飾りをしたかったのですが、それはまた今後の課題として残しておきたいと思います。最後に少しだけ、島の入り口や住民の家の庭にドット絵を飾った様子をお見せしたいと思います。床や道の素敵なマイデザインもお借りしています。

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5. おわりに

お察しの通り、教材作成や提出課題の確認を通して、一番楽しんだのは私だったと思います…。今回の講義では、私自身も標準的なデータ形式の価値や文化・学術コンテンツの発信プラットフォームとしてのゲームの威力を再確認することができました。

最後までこの記事を読んでくださり、誠にありがとうございました。


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