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シャドーボクサー

JR桜の宮から桜宮スケートリンクまで
少し歩かないといけなかった。

中2と中1の二人は二人とも小柄だった。
同じボクシングジムの6回戦の選手の試合を応援しにいくのだ。
歩きながら二人でシャドーボクシングして会場までむかう。
相手のボディを肘でブロック、すぐ左フック。
サイドステップ、ターンくるり。シュッ、シュッ。

大きな広い路もあり路駐している車が沢山止まっていた。
座席の横窓が黒く中が見えない四角い車があった。
その窓の前に立つと自分の姿が良く映るのに気づく。
ジムの鏡みたいだ。
「ここ黒いのメチャ映るで」
すぐ二人で路駐の黒い鏡の前にたってシャドーボクシングを始めた。
やたら元気な燃ゆる少年だ。

30秒くらいするとスーッと窓が降りた。
中から出現した顔は鬼の様なもの凄い顔をしていた。
二人のシャドーボクシングの動きが止まった。
鬼は怒ってるというよりビックリした表情だった。

人が乗っているのに気づかなかった。
怒られると思った。
しかしその暴力団員風の恐い顔をしたオッチャンは
何も言わない。
無言のままビックリ顔で僕達を観ている。
そしてこちらを観たままスウっと黒い窓は上がり
オッチャンの顔はまた見えなくなった。

バックステップして二人で笑いながら走って会場に向かった。
その日一緒にシャドーした友達はホントに世界チャンピオンにまで昇りつめた。
そして二階級制覇まで成し遂げる。
南米の選手が来日するたびに一緒にサインを貰いにいった。

同じジムのプロ6回戦の選手は判定負けだった。
練習嫌いの沖縄の選手だった。



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