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禿げシンガーwas偽デニーロ

25歳でいわゆる正社員を辞め
フリーターとしてバイトをしていた。
冷蔵庫の仕事で喘息が悪化したのも自信を持って就活できない理由のひとつになった。
荷物の軽い玩具関係の組み立て梱包の仕事を見つけた。
やはりそこには見るからにフリーターっぽい20代な人がメインだった。
役者志望だという身長154センチくらいのお喋りな男がいた。
小柄で完全に禿げているのにコメディアン志望ではなくむしろシリアスな方向に意識を置いていたのが不思議だった。

その男は勤務中大きな声でデニーロがどうしたこうしたとか毎日、わざわざ両手を広げて、口をへの字形に変化させ身振り手振りを加えながらデニーロ映画のワンシーンを語るのが常でアクが強く嫌う人もいた。
しかし私もデニーロファンでこの禿げ散らかしたまだ若い短躯の男がイチイチ気にはなっていたが、なかなか話しかけずらい雰囲気もあった。

ある日昼休みにロッカー室から歌声が聴こえた。
ギターの伴奏も聴こえる。
よく響くしかも技巧に長けた歌唱だった。
プロフェッショナルシンガーかと思うくらいの迫力があった。

誰が歌っているのか気になって他の先輩に尋ねてみた。
そう唄い上げていたのは短躯のまだ若いのに禿げ散らかしている以前から着目していたその男だった。
ビジュアルのない声優やアニメシンガーなら売れてサクセスストーリーを手中に収めていていただろう。

それくらい艶のあるエモーショナルな本物の歌唱力の持ち主である事が判明した。
と同時に即決で私の観念の内で
この短躯の唄う若い禿げを
「禿げシンガー偽デニーロ」と断定した。

次の日、私は「禿げシンガ〜偽デニーロ」に話かける決意をした。

                  続く。

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