「“この人のために”ではなく“この人とともに”」 -認知症とともによりよく生きる -

 認知症の人と家族の会福岡県支部の月刊広報誌「たんぽぽ」に「認知症とともによりよく生きる」という連載を行っています。今回、許可をいただいてnoteにも転載することとしました。 
 こちらの記事は、2020年1月号に掲載されたものです。

 先日、企業の方向けに認知症フレンドリーについて知ってもらうための研修会を行いました。この会で丹野智文さんがおっしゃっていたことが印象的でした。

―車椅子に乗っている方は、車椅子を押されて操作されるのを嫌がる。でも僕たちは車椅子を見ると、「この人のために」と、つい押してあげたくなってしまう。「この人のために」と思ってやっていることが、この人にとっては迷惑になってしまっている。同じことが認知症にも言えるのではないだろうか。「この人のために」と周りの人がやってあげすぎることで、かえって本人のためになっていない。「この人のために」ではなくて「この人とともに」どうするかという視点でぜひ考えて欲しい―

 丹野さんはよく、「認知症になっても失敗したい。チャンスを奪わないで欲しい」ともおっしゃいます。認知症の人の家族が、「本人のために」と思って代わりにしてあげることで本人が自分で動くチャンスを奪っていないでしょうか。たしかに、本人が行うと時間がかかるし失敗をするかもしれませんが、自分で行うこと自体が頭を使う作業で重要ですし自分でできれば自信にもなります。

 もう一つこの会の中で、前頭側頭型認知症と過去に診断された竹内裕さんが自分の持っている服を忘れてしまうので、ウォークインクローゼットにして棚を透明にしてどんな服があるかを棚を開けなくても見えるようにした、と日常生活の工夫をご紹介されました。これを聞いたある企業の担当者が、「あの工夫は認知症の人に限らないことで、僕らもやれば朝の準備の時短につながりますね。認知症の人の困っていることは僕らの困っていることと地続きなんだってわかりました」と懇親会でおっしゃっていたのを聞いて、この会は成功したと思いました。

 「この人のために」ではなく「この人とともに」。「認知症の人のことは私たちと地続きだ」というこの二つの視点は認知症の人の近くにいると忘れがちだけれども、とても重要なものなのではないかと考えています。


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