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目の前の人に「死にたい」と打ち明けられたら

「死にたい」と言われた経験がある人は多くないかもしれません。
自殺は一般に頻度が高いことではありませんが、10代から30代の死因の第一位は自殺であり、一時期減少していた自殺者数は2020年に11年ぶりに増加に転じ2021年も高止まりしています。

また、慣れない人、知識のない人ほど自殺の危険を過小評価しがちだと言われています。

先日、自殺予防について学ぶ機会があったためnoteでまとめておきます。
目の前の人に「死にたい」と打ち明けられた時に適切な対応ができることを目指した内容で、福岡県自殺未遂者支援マニュアルが元になっています。

自殺に関する用語の定義

自殺企図 自殺既遂と自殺未遂が含まれる
自殺未然 自殺行動をしていることを止められること
自傷   死ぬつもりがなく自らを傷つけること

自殺念慮 具体的な方法は考えてないけど死にたい
希死念慮 自殺はしたいと思わないが、死んだら楽になると思う

自殺未遂や未然に至っていた場合には緊急の対応が必要で、自傷、自殺念慮の場合は精神科での治療が必要です。

自殺未遂者の対応としては、最優先すべきものがなにか、精神障害か、社会的環境か、について考えます。
自殺未遂者は様々な困った要因を同時に持っており個々の対策を考えるだけでは不十分です。

目の前の人から「死にたい」と打ち明けられた時の、よくある不十分な対応

「目の前の人から”死にたい”と打ち明けられた時にどうしますか」
と問われた際によくある反応として
「なぜそう思うのか尋ねる」
「とにかくその人の話を聞く」
というものがあり、
実際にその場面になった時には
「聞かなかったことにする」
「自殺はダメ、と諭す」
「家族が悲しむことを伝える」
「命の大切さについて話す」
といった対応がとられることがあります。
これらは、いずれも不十分な対応です。

「死にたい」という気持ちを持った人と接する時には、TALKの原則

「死にたい」という気持ちを持った人と接する時に、しっかり向き合うための対応としては、TALKの原則が役に立ちます。
 TALKはTell、Ask、Listen、Keep safeの頭文字です。

Tell

まず、はっきり言葉に出して「あなたのことを心配している」と伝えます。
誠実な態度で話すことが重要ですが、ここで諭すように話しすぎないことも重要です。

Ask

次に、死にたいと思っているかどうかを率直に尋ねます
死にたいと思っている人に死や自殺を話題にして、これによって自殺行動が惹起されるということは決してありません。
むしろ、自殺行動のブレーキとなります。

Listen

つづいて、相手の絶望的な気持ちを徹底的に傾聴します。
絶望的な気持ちを一生懸命受け止めて聞き役にまわりります。
とりあえず10分間はしっかり聞くということが一つの目安です。
死にたい気持ちを持つ人は、10分間話を聞いてもらったことがない人が多いようです。

Keep safe

ここまでの対応を行ったうえで、やはり自殺のリスクが高いと判断すれば、まず本人の安全を確保して、周囲の人の協力をえて適切な対処をします
ここで、大変な時には周囲の人の協力を得るのだということを実際にやってみせるということも重要です。

自殺の危険が心配になったら、しなければならない3つのこと

1 心理状態を確認する

心理状態(自殺念慮の振り子モデル、心理的視野狭窄、焦燥感)

自殺念慮の振り子モデル
自殺念慮は一定ではなく振り子のように両極を揺れ動いて、死にたいと生きたいをいったりきたりしており、場合によっては両方の気持ちを同時に持つこともあります。
行動に移った段階では考えるレベルを超えており、話せる状態にすることが目標となります。

心理的視野狭窄
普段の状態なら解決策やブレーキをかけることを考えますが、心理的視野狭窄状態になると自殺しかみえなくなります。
視野が狭くなった人の視野を広くすることを目指します。
「自殺をやめましょう」ではなく、具体的な解決先について考えていきます。
例えば、お金の問題なら司法書士に相談してみる、などです。

焦燥感
外からのプレッシャー、心の痛み、焦燥感、が極まった時に自殺が起きるという自殺に関する理論的立方体モデルがあります。
この3つの中で、焦燥感は本人に聞かなくても他覚的に評価できるため意識しておきます。

2 自殺の危険因子を確認する

SAD PERSONSスケール
自殺の危険因子を確認する際に、SAD PERSONSスケールが役に立ちます。
これは、自殺の危険因子の頭文字です。
Sex 男性
Age 年齢 高齢者と思春期
Depression うつ病
Previous attempt 自殺企図歴
Ethanol abuse アルコール、薬物の乱用
Rational thinking loss 合理的思考の欠如
Social support deficit 社会的援助の欠如
Organized plan 練られた計画
No spouse 配偶者の欠如
Sickness 慢性の病気

自殺の危険の評価に基づき可能な限り自殺の危険性を減らす、
変えられる危険因子から変える、
変えられない場合は心理状態を安定させる、
という視点が必要になります。

自殺の原因はこれ!と特定しがちだが、直線的な考え方は馴染みません。
自殺の原因を問わない、自殺に関わる複数の要因を探る、そして要因をできるだけ減らすことを考えます。

3 できることから積極的に働きかけ、自殺行動にブレーキをかける

自殺の手段を遠ざける、心理状態を安定させる、を行なった上で、危険因子を減らします。

「自殺のサイン」という言葉の問題点
・意味する内容が広く何を示すかが曖昧
・自殺はサインを見逃した結果生じるものという含みがあり、自死遺族を否定的に捉えることにつながりかねない

福岡大学医学部 衞藤暢明先生

してはいけないこと

自殺をしない約束をする、は意味がなさそう。
自殺の危険が高いと根拠をもって言える時には守秘義務は問われません。

私たちに求められること

「孤立しない、孤立させない」

危機的な状況では、わずかな支援が大きな力になることを自覚する。

「希望を持ち続ける」

私たちが生き残る。

最後にもう一度、福岡県自殺未遂者支援マニュアルを載せておきます。


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