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邦題は世につれ

翻訳家の方に来ていただいて、手掛けられた翻訳本のお話をみんなで愉しむ茶論トークでは、さまざまな名作を取り上げています。

つい最近も最新作が日本でも上映されました映画 『若草物語』。

原作はルイザ・メイ・オルコット(Louisa May Alcott)が、自分を含めた4人姉妹をもとに書いた1868年に出版された児童文学です。
原作は4篇あり、映画は第1篇と第2篇のストーリーで構成されます。
原題は第1篇が「Little Women」。
以下『続 若草物語』(Little Women Married, or Good Wives)、『第三若草物語』(Little Men)、『第四若草物語』(Jo's Boys)となっていて、姉妹の成人・結婚やその後の生活が描かれています。
原題となっている「リトル・ウィミン」はルイザの父親が実際にルイザを含む娘たちを呼称するのに用いていた言葉で、単なる幼い少女ではなく一人の立派な女性であるという意味合いで用いていたそうです。

日本で翻訳された最初は1906年(明治39年)に、北田秋圃というペンネームで3人の共同翻訳で『小婦人』の名で出されました。この時の訳は、登場人物を日本人らしい名前に置き換えた“翻案”です。
その後、別の訳者によって『四少女』『四人姉妹』『四人の姉妹』という題でも発行されています。

この本の邦題が「若草物語」として最初に出版した人は、諸説ありますが、その一人に、文章力と美貌を兼ね備えた女流作家として人気を集め、坂口安吾の恋人とされた矢田津世子さんがいます。その出版年は1934(昭和9)年。
実は、直後に日本ではキャサリン・ヘップバーン主演の映画「若草物語」が封切られていて、小説の刊行はこの公開をきっかけにしたものと言われています。つまり、小説「若草物語」は、映画にタイトルを合わせたものなのだそうです。ちなみに、映画の日本語監修を手掛けたのは、日本の少女小説家の始祖とも言われる吉屋信子さん。

それ以降、この作品は「若草物語」のタイトルで親しまれています。

ところがここ最近、「若草物語」というタイトルでは手に取ってもらえないのだとか。
翻訳家の方が、非常勤講師として大学で教えていらっしゃる生徒さんのかなりの方が、「若草物語」を翻訳本と思いもしないで、「源氏物語」や「竹取物語」とおなじような平安時代の日本文学だと思っているのだそうです。

という最近のエピソードを、翻訳家の方は「今の人たちに合ったタイトルに変えるべきなのかしら?」と思案顔で教えてくださいました。

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