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カンボジアの深夜ギャンブル(ポーカー)の果てに…

2024年3月16日(土)深夜1時ごろ。カンボジアは首都プノンペンのカジノ・ナガワールドのポーカールームで、僕は頭を抱え、過去最悪のティルト(感情的になり、冷静な判断ができない状態)の真っ只中だった。
(ポーカーに詳しくない方はこちら。)

というのも、突然やってきたプリフロップ(ボードにカードが出る前、つまり手持ちのカード2枚以外、どの役で相手と勝負するのか情報がない状態)での3-way(3者)オールイン(プレー資金全賭け)に負け、700ドル($1/3なので233BB)ほどのスタック(プレー資金)をほぼ全て失ったからである。

同卓していたヨーロッパ系プレーヤー3人、中華系プレーヤー4人、そしてカジノの現地ディーラーが嘲笑うかのように、(おそらく)その日の卓で大一番のギャンブルで負けた僕の表情を盗み見しようとしている(勝ったのは1人なので、もう1名も敗者であるが、彼はまったくもって飄々としていた)。

200BB(一般的な持ち込み資金の2倍。強制賭け額が一番低い$1/3だと、100Big Blindは300ドル。200BBは600ドル)を一度に失うことは、ポーカーをやっていればたまに遭遇することではある。痛いのは痛いが、まああるよねという感じ。

この時猛烈にショックだったのは、ここまでの数日間に渡る過程にある。

僕にはこれをやるとなぜか大負けするという、2つの不思議なジンクスがある。今回の遠征残り4日・3日というところで、それはたまたまだ、そんなジンクスなんて存在しないぜ!とタカを括って、その2つとも同時にやってしまった。

その結果、案の定、タコ負けを喰らった。それまで大きくはないがコツコツ積み上げていた利益を、残り4日・3日で吹っ飛ばして、逆に1800ドルのマイナスに陥ってしまった。

残りあと2日。これまで1年間、このポーカールームでプレーしてきた感覚から、$1/3で1800ドル以上を2日で取り戻すのは、どんなに運が良くても無理ゲー。そう思った。

せいぜい、800ドル大勝ちして、損失を-1000までに持っていければ御の字だな…。そう思って残り2日に望んでいた。そう800ドルでも十分に大勝ちなのである。

ところが、である。奇跡の神様というのは、まさかかな、まさかかな、存在した。

「文字通り」奇跡的に1日目で1220ドル勝ち、さらに最終日の前半で420ドル勝ち。-1800ドルだったところから、-160ドルというところまで盛り返していたのである。

そして臨(望)んだ最終日後半。500ドルバイイン(資金をチップに変え持ち込み)で順調にチップを積み上げ、+200ドルとなった。これで無理ゲーだと思っていた、-1800をわずか2日で取り戻し、今回の遠征でトントン(わずかプラ転)まで戻していた。

はっきり言おう。出来すぎた。上振れにも程がある。

レギュラー仲間にも「今日はもう帰ったほうがいいよ」と声をかけられた。彼女も少なくとも僕が知っている限り1年以上、ここで打ち続けていて、ポーカーの止め時を知っていた。

そう、すぐにゲームを切り上げ、帰るべきだった。

ポーカーで魔が差すのは、どうしてどうして、最後あと1周…という時なのだ。

冒頭に書いた、ほぼ全損事故に遭遇してしまったのである。


せっかく奇跡が起きて今回の遠征通算でプラマイゼロまで戻していたのに、最後の最後でまた-700近くまで一気に落としてしまった。(この時点で夜1時)

さすがにもう、あと数時間で700ドルを取り返す自信も気力もない…

僕が過去最悪のティルトに陥っていたのは、そんな事情からだった。


本当に最悪の気分だったので、この時ばかりはショックの有り様を隠さなかった。自分に対して「今は人目を憚らず、ティルトして良い」という許可を出していた。(ティルトしたらダメだ!と自分をコントロールしようとするのは逆効果になることを知っていた)

そして、その時、ふとプロポーカープレーヤーの木原さんのツイートを思い出したのである。

みんなティルトすることを悪いことと思いすぎているんじゃないかな。 ティルトすること自体は良くはないけどしょうがない。大切なのはその時でも普段と変わらないプレイができるように確固たるプレイを作り上げることと思う。
ティルトしないようにしようとしすぎて、ティルトした自分にまたティルトする。 そうじゃなくて、ティルトしている自分を客観的に把握して、そんな状態でも普段通りのプレイをできるようにスキルを磨くことが大切なんじゃないかなと。


僕はティルトした状態でプレーしながらも、頭の中で何かが冷静に回り始めていた。それは…

「このテーブル、爆勝ちできる!!!」

超ルースアグレッシブ(通常の頻度より積極的にハンドで参加してきて、しかも攻撃的)なプレーヤーが2人いて、冒頭の3-Wayオールイン(持ちチップ全賭け)も、この2人とだった。(ちなみにこの時の勝率は、僕CO/QdQh(53.5%)、ボタン/AdKd(36.8%)、BB/AsTc(9.96%)で、僕に有利だったが、結果的にボードでTd8d4c7dJhと、AdKdにフラッシュを引かれ負けたのだった。)

彼らはどんなに大きなスタックを入れることも厭わない、言ってみれば、絶好の相手である。このようなタイプのプレーヤーとプレーすると、勝ち負けのスイング(上振れ、下振れ)が激しくなるもの。

心臓がドキドキではなく、バクバクしている。その証拠に、apple Watchが心拍数が急に上がったことをお知らせする通知を送ってきた。

僕は500ドルまでバイインし直し(プレー資金を補充し)、よりタイト(通常の頻度より参加するハンドを絞って)にいく戦略に切り替えた。

すると、まったくの幸運にも、良いハンドが入りまくる…!!

プリプロップで、20ドル(約7BB)でレイズオープンしても(通常の最初の吊り上げ賭け額は3BBくらいなので、倍以上)先述のルースアグレッシブなプレーヤーは普通にコールしてくる。そして、テーブル全体も連られてどんどんルースになっていく…

さらにストラドル(プリフロップで$1と$3の強制賭けに上乗せして、自主的に$6を強制賭けするというリスクの高いベット)が入ることもあり、まるで遥かにレートの高い$5/10くらいのレイズ(賭け額の吊り上げ)サイズになっている。

さらに僕の状況をよくしたのは、僕がティルトしていると周りの誰が見てもそう思っていたことである。僕は確かに感情的にはティルトしていた。周りに、あいつはティルトして、むちゃくちゃルースになっている…そう思われていることも認識していた。

実際は普通に強いハンドが来ていただけだったのだが…

そんな状況を最大限利用して、このテーブルでエクスプロイト(相手のミスや弱み、読み間違いにつけ込む)する道を必死に探っていた。


ここからの長い話を短くすると、-700近くだったところから、わずか2時間ほどで2000ドル近く勝ち、+1270で今回の遠征・最終日の後半を終えたのだった。

$1/3で、わずか2時間で2000ドル勝つことは、金輪際ないのではないか。いや逆にリミッターが外れて、度々出てくることになるのだろうか。


ポーカーは本当に面白い。ギャンブルのようなマインドセットでは絶対にいけない…のだが、漏れなくギャンブル的な要素を孕んでしまう…

それが、一つのテーブルを囲んで展開されるポーカーというゲームが、国家や言語、宗教、年代、社会的立場の壁を越え、世界中でたくさんの人を虜にする一つの理由ではないだろうか。


追伸: 当記事ではポーカーにも馴染みがない人にも読んでもらえるよう、あえて直情的な表現をしている箇所が多々あります。悪しからず。

ポーカーをやる上では、実際はすべて確率の上で起きることですので、あまり「奇跡」とかはないと思いますし、ごくたまにあるティルト以外、いちいち感情的になるべきでもないです。基本的に3年間で10万ハンドほどこなした結果、どうだろうという視点でプレーしているので、日々の結果に対して、僕が普段「勝ち」とか「負け」とか表現することもまずありません(実際は数字が減ったり増えたりしているだけですので)。

ポーカーに限らず、自分の余裕の資金内でギャンブルすることができない人(余裕の資金以上に賭けてしまう人)、またはその恐れがある人は、ギャンブルを最初からしないか、自分で止められない人は専門家に相談しましょう。

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