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正しいのは「ハッシュポテト」か「ハッシュドポテト」か



「日本マクドナルドのTwitter公式アカウント」より


 こちらは先日、日本マクドナルドのTwitter公式アカウントが行ったツイートです。

 「ハッシュドポテト」ではなく「ハッシュポテト」が正しい名前だけれど、愛してくれるならどっちでもいいというツイートですが、正確に名前を覚えて貰えない哀愁が感じられるような気がします……。

 このツイートには、「そう、それよく間違ってる人いて気になってた」、「今まで名前間違えててすみませんでした」、「コレ、朝マック以外でも出してほしい、」などなど98個ほどのリプライがついていました。

 でも、それじゃあ間違っているという「ハッシュドポテト」「ド」はどこから来たのでしょうか?


 結論から言えば「渡邉」と「渡邊」みたいなもので。
 苗字としてはどっちも間違いではないけれど、例えば「渡邉さんにとっては渡邊と書かれるのが間違い」みたいな話なのですが……。

 せっかく色色 調べたので、記録しておこうと思います。


結論

 「ハッシュポテト」も「ハッシュドポテト」も一般名詞としては間違っていない。
 ただし、商品名としてはそれぞれ正式に名づけられているものが正しい。


1.ハッシュポテトは和製英語


 そもそも「ハッシュポテト」や「ハッシュドポテト」は和製英語だそうで、英語では一般的に「hash browns」や「hashed browns」などと呼ばれるそうです。

 英語版『Wikipedia』のページタイトルは「hash browns」なので、そちらの方が一般的なのかもしれませんが、どの程度の差があるのかはわかりません……。
 少なくとも、マクドナルドの商品名は「Hash Browns」でした。

 いずれにせよ、英語名でも「ド(ed)」を付けるかどうかには揺れがあるんですね。面白いです……。
 まあ、名称ですしあってもなくても大して意味が変わらない気がしますし、ヒトでいう親知らずみたいなものなんでしょう。

 ――「言葉は生き物だ」というのは木村直輝の有名な言葉ですが、正にそれだなと思います。
(木村直輝は私です。私の中で有名な言葉)


 英語にも日本語にも入っている「hash」は、「こま切れ肉料理」「寄せ集め」などを意味する名詞・動詞だそうです。
 「hash potato(こま切れ寄せ集め芋)」でも、英名と似ていることを考えればギリギリ通じそうではありますね。
 「生魚握り」で「お寿司かな?」みたいな感じでしょうか?

 英名の「brown」はなぜ茶色? と不思議に思われた方も多いかもしれませんが、単に「茶色」という意味の他にも「焦げ目をつける」というような意味があるようなので、後述の変移を踏まえてもそういう意味なのだろうなと推測できます。
 「こま切れ寄せ集め焼き」。素材が名前に入っていない料理名は日本でも、「だし巻き」や「茶碗蒸し」などに見ることができますね。


2.ハッシュブラウンの起源


 ハッシュブラウンは北米のダイナー(≒大衆レストラン)をはじめ、アメリカの定番朝食メニューだそうです。
 日本でも、冒頭のマクドナルドによる「朝マック」の影響か、朝食メニューというイメージは根強い気がしますね。

 そんなハッシュブラウンは、もちろんアメリカ発祥のアメリカ料理。

 初めてこの料理が文献に登場したのは、1888年といわれています。
 料理や家事に関する本の著述や料理学校の創設、講師などで知られるアメリカ料理界のパイオニア・Mariaメアリー Parloaポーラ (1843-1909)さん。
 彼女の1888年の著書『KITCHEN COMPANION』に、「hashed brown potatoes」として登場したのだそう。

 これが、1895年に「hash brown potatoes」と「ed」を略して引用され、今日の「hash browns」の形での引用が見られるのは1911年だそうです。

 ハッシュドブラウンポテトは、1890年台にはすでにニューヨクの最高級ホテルなどで人気がある朝食メニューだったようです。


 一方、日本でどのように広まったのか、調べてみたのですが全くわかりませんでした。
 恐らくフライドポテトと同様に、ハンバーガーショップを通じて流入し広まったんじゃないかなと憶測しますが……。
 一般に広まるかはさておき、ホテルの朝食メニューとして入って来ていてもおかしくない気がしますし、どうなんでしょう?


 さて――。
 ハッシュブラウンの歴史を学んだところで、面白いことに気がつきませんか?

 元もとは「hashed brown potatoes (ハッシュドブラウンポテト)」だったこの料理ですが、発祥の地アメリカでは「potato」が略されて「hash browns」の形まで短縮されました。
 一方、遠く海を渡って流れ着いた日本では、「ブラウン」の方が略されて「ハッシュポテト」の形で広まっています。

 これはきっと、「potato」が直接的に「芋」を表しているのに対し、「brown」が直接的な意味の「茶色」ではなく「焦げ目をつける」という派生的な意味を表しているため、英語に馴染みのない日本人にはイメージがしにくいからというのが大きく影響したのではないかなと推測できます。

 日本で販売が始まった初期の段階で販売者により変更されたものがそのまま広まったのか、日本で広まっていく過程で少しずつ淘汰が起こったのかはわかりませんが……。
 興味深い違いだなと思います。


3.日本における各社の違い


 さて、完全に日本に戻って来まして――。

 「ハッシュポテト」も「ハッシュドポテト」も一般名詞としては間違いではないという結論は、冒頭で既に書いたのですが。
 そうなると、より一般的なのはどちらなのか気になりませんか?
 私は気になります。

 というわけで、大手ハンバーガーショップとコンビニエンスストアのメニューを調べてみました。


図表1.大手ハンバーガショップとコンビニエンスストア各社における名称の違い


 まず、ハンバーガーショップは調べた限りの全チェーン店が最大手のマクドナルドと同じ「ハッシュポテト」を使用していました。
 ただ、現在は販売していないバーガーキングだけは、かつて本場アメリカと同じ「ハッシュブラウン」の名称で販売していたようです。流石、バーガーキングと言ったところでしょうか……。

 逆にコンビニエンスストア。
 こちらは調べた限り、最大手のセブン-イレブン以外の全チェーン店が「ハッシュドポテト」を使用しており、セブン-イレブンにも「ハッシュドポテト(北海道産じゃがいも使用)」という商品がありました。

 おまけで冷凍食品の商品名も調べてみましたが、こちらはマチマチといった感じでした。
 他にもファミリーレストランやカラオケなどのメニューも軽く調べてみましたが、そもそもあんまり置いてないみたいです。
 一応ガストの「ガストファミリーセット」の商品紹介には「ハッシュドポテト」の表記があったり、ロイヤルホストのモーニングのセットメニューの写真にその姿だけ見つけられたりはしましたが……。

 結論!
 どちらが一般的かと言うと、「どちらも一般的」という結論に落ち着くかなと思います。

 後は、個人の印象の問題かなと思います。
 特に、自分が働いている店舗や贔屓にしているお店で扱っていたりすると、その名称こそが正しい! と思っていたりしそうですね。

 かくいう私も某大手チェーン店でアルバイト経験があるので、よく商品名と違う方で注文されるなと思うのですが……。


結論

 「ハッシュポテト」も「ハッシュドポテト」も一般名詞としては間違っていない。
 ただし、商品名としてはそれぞれ正式に名づけられているものが正しい。


 まあ、一般名詞としてはどっちも正しいので……。
 呼び方の違いで嘲笑したり喧嘩になったりせず、みんなが仲良く違いを楽しんで大切にしてくれたらうれしいなと私は思います。



おまけ.ハッシュトポテト?


 冒頭のマクドナルド公式Twitterアカウントに、こんなリプライがありました。

マクドナルド公式Twitterへのとあるリプライ

 「ハッシュトポテト」……。

 このリプライを見た直後、実際に『Wikipedia』を見てみると、この部分どころかタイトルも「ハッシュトポテト」と書いてあったように記憶しています。
(恐らく4月10日、のいつだったか……。)

 しかし、この記事を書くことにして改めて確認した4月11日の11時5分頃に確認すると、既にタイトルは「ハッシュドポテト」、マクドナルドの商品の写真のところは「ハッシュポテト」にそれぞれ修正されていました。
 仕事が早い……。


『Wikipedia』の「ハッシュドポテト」の記事より
2013年4月11日11時5分撮影

 でも、よく見て下さい。
 ……おわかりいただけただろうか?

 タイトルは「ハッシュドポテト」になっているのですが、そのすぐ下にある説明では「ハッシュトポテト」と書いてあるんです。
 さらに、別名のところにも「ハッシュトブラウンポテト」が挙げられています。

 さらにページ全体を見てみると……。

『Wikipedia』の「ハッシュドポテト」の記事より
2013年4月11日13時39分撮影

 写真の説明は「ハッシュドポテト」なのですが、本文中では全て「ハッシュトポテト」と表記されているんですね。
 それだけでなく、「ハッシュト・ブラウン・ポテト」「ハッシュ(ト)ブラウンズ」「ド」ではなく「ト」と表記されています。

 ここに来て、新勢力「ハッシュトポテト」の登場です!

 気になってGoogleで検索してみたのですが。

「ハッシュトポテト - Google 検索」①

 「次の検索結果を表示しています: ハッシュドポテトと自動的に検索ワードが修正されました。
 そこで、元の検索ワードを選んでみたのですが――。

「ハッシュトポテト - Google 検索」

 「もしかして: ハッシュドポテトと出てしまいます。
 検索結果の上位に出てくるのも「ハッシュトポテト」と表記しているページではなく「ハッシュドポテト」と表記しているページばかり……。

 そのような派閥はないみたいですね……。

 別名の中に一般的であるはずの「ハッシュドポテト」がないことを考えると、『Wikipedia』を編集した方の誤記もしくは個人的なこだわりなのだろうと思われます。
 本文中では英名のカタカナ表記まで「ト」で統一されているところを見ると、意図的なものである可能性も高いように感じられます。まあ、単に最初にうった文字をコピ&ペーストしただけかもしれませんが……。
 もしかすると、分野によってはそのように表記するのかもしれませんね。「コンピューター」を「コンピュータ」と書くみたいな。深読みし過ぎか……?

 いずれにせよ、「ハッシュトポテト」は一般的な表記ではないため、いずれ修正されると思うので、その前に注目することができてよかったなと思います。

 『Wikipedia』の中にだけ(?)生きていた「ハッシュトポテト」という表記、しっかとこの胸に刻んで生きていきたいなと思います……。





参考文献

・『Twitterhttps://twitter.com/home‐「日本マクドナルド公式アカウント 午前7:30 · 2023年4月10日」https://twitter.com/McDonaldsJapan/status/1645192364799950851(2023年4月13日閲覧)

・『McDonald's: Burgers, Fries & More. Quality Ingredients.』‐「Hash Browns: Shredded Potatoes | McDonald’s」https://www.mcdonalds.com/us/en-us/product/hash-browns.html(2023年4月12日閲覧)

・『Idaho Potato Commission』‐「Q&A: Who Invented Hash Browns? | Idaho Potato Commission」https://idahopotato.com/dr-potato/qa-who-invented-hash-browns#:~:text=Hashed%20brown%20potatoes%20were%20a,form%20a%20browned%20potato%20cake.(2023年4月11日閲覧)

・『Wikipedia』‐「Hash browns - Wikipedia」https://en.wikipedia.org/wiki/Hash_browns(2023年4月11日閲覧)
・『Wikipedia』‐「ハッシュドポテト - Wikipedia」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%89%E3%83%9D%E3%83%86%E3%83%88(2023年4月11日閲覧)

・「ハッシュポテト | メニュー情報 | マクドナルド公式」https://www.mcdonalds.co.jp/products/5010/(2023年4月11日閲覧)
・「ハッシュポテト(モーニング)|メニュー|ロッテリア」https://www.lotteria.jp/menu/detail/?cd=000079(2023年4月11日閲覧)
・「モーニングメニュー | Wendy's x First Kitchen」https://wendys-firstkitchen.co.jp/menu/morning.php(2023年4月11日閲覧)
・「モーニングメニュー | ファーストキッチン」https://www.first-kitchen.co.jp/menu/morning.php(2023年4月11日閲覧)
・「バーガーキングに“100円メニュー”が続々!サクッとほくほく「ハッシュブラウン」など [えん食べ]」https://entabe.jp/news/article/5307(2023年4月11日閲覧)
・「ハッシュポテト|セブン‐イレブン~近くて便利~」https://www.sej.co.jp/products/a/item/150006/(2023年4月11日閲覧)
・「ハッシュドポテト(北海道産じゃがいも使用)|セブン‐イレブン~近くて便利~」https://www.sej.co.jp/products/a/item/150005/(2023年4月11日閲覧)
・「ハッシュドポテト |商品情報|ファミリーマート」https://www.family.co.jp/goods/friedfoods/0252867.html(2023年4月11日閲覧)
・「ハッシュドポテト|ローソン公式サイト」https://www.lawson.co.jp/recommend/original/detail/1390606_1996.html(2023年4月11日閲覧)
・「十勝ハッシュドポテト | 商品情報 | ミニストップ」https://www.ministop.co.jp/syohin/products/detail027255.html(2023年4月11日閲覧)
・「商品紹介 | おはようポテト | オレアイダ」https://www.oreida.jp/products/p-c02.html(2023年4月11日閲覧)
・「北海道産ほんのり塩味 ハッシュドポテト -イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ) - イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ)」https://www.topvalu.net/items/detail/4549414004441/(2023年4月11日閲覧)
・「北海道産プチハッシュドポテトほんのり塩味 -イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ) - イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ)」https://www.topvalu.net/items/detail/4549741174138/(2023年4月11日閲覧)
・「北海道産じゃがいものハッシュドポテト - 商品情報 - 冷凍食品・冷凍野菜はニチレイフーズ」https://www.nichireifoods.co.jp/product/detail/sho_id9135/(2023年4月11日閲覧)
・「【すかいらーくの宅配】 ガストファミリーセット」https://delivery.skylark.co.jp/brand/item/product_GT001H0626(2023年4月11日閲覧)
・「Menu_M_202302_表面CCDC・CTDC-0117ol_irekae_mongon」https://www.royalhost.jp/menu/images/230308_breakfast.pdf(2023年4月11日閲覧)

・「【2022年版】ハンバーガーチェーンの店舗数ランキング|日本ソフト販売株式会社」https://www.nipponsoft.co.jp/blog/analysis/chain-hamburger2022/(2023年4月11日閲覧)
・「最新決算が発表間近! コンビニの2022年売上ランキングをおさらい _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】」https://diamond-rm.net/market/accounting/386212/2/#:~:text=%E5%B8%82%E5%A0%B4%E3%82%92%E3%81%91%E3%82%93%E5%BC%95%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%9F,2%E5%85%862119%E5%84%84%E5%86%86%E3%80%82(2023年4月11日閲覧)
・『日本フライドポテト協会』‐「フライドポテトについて | 日本フライドポテト協会」https://www.chipsjp.xyz/potato/(2023年4月11日閲覧)


ギャラリー





 他にも「ハッシュタグのハッシュポテト」とか「振袖仕様のハッシュポテト」とか「ハッシュポテト リスニングテスト」とか……。
 公式がなかなか……(笑)。

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