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第14話「地獄に光明、照り返す蹄」

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「おぉっ! っほぉ……」
 
 俺は腹に強烈な拳を受けて、床に倒れた。
 内臓が潰れたんじゃないかというほどの痛みで、上手く呼吸もできない。
 
「力を制御できるようになるとはなぁ。そんな玉だとは、嬉しい誤算だよ。俺が品定めしてやる」
 
 ヒッポグリフの野郎のムカつく声が、床に這いつくばる俺の上に降って来やがる。くそっ!
 
「はぁー! はぁー! はぁー!」
 
 くそっ! 呼吸をするので精一杯で、体が動かない。痛い、痛い、痛い、苦しい! くそっ! くそがぁ!
 
「どうした? ドラゴンの腕は……、どうしたっていてんだろうがよぉ!」
 
「ぁあっ!」
 
 右の脇腹を蹴られたんだと気づいた時には、俺はもう横向きで床に転がっていた。くそっ、ヤバイ。少しだけヤバイ状況だ……。
 痛みと苦しさで立てない。俺は両手を自由にドラゴンに変貌させられるようになったが、まだ重くて動かすことはできないし、戻すのにも若干の時間がかかる。タイミングを見て上手く使うしかないが、こんな状態では……。
 
「おっ! ごはっ!」
 
「どうしたよぉ。カス・ドクソ・チープ・ドラゴンだったかぁ? の力はぁ。ほらぁ、どうしたぁ?」
 
「はぁっ! はぁっ! カっ、カオスぅ……、ダークぅ……、ディ、ディープおぉっ!」
 
「力見せろって言ってんだよ。ぁあ?」
 
「んふっ!」
 
 顔面を床に叩きつけられ、鼻の中を重たいものが流れていく感触がした。くそっ! 馬鹿なのかこいつは! 商品価値が損なわれるだろ! いてぇ。くそぉ。くそがァ!
 
「おいおい、大事な顔が傷ついちまったなぁ。これじゃあもう、いらねぇなぁお前」
 
「んっ! ……んっ! ……ぬふっ!」
 
 顔面を床に何度も叩きつけられる。やめろ、やめろ、美月、美月ぃ! 助けて! 助けて! 美月ぃー!
 
「兄貴ぃ! 大変です!」
 
「ああ、なんだ? しょうもねぇ話なら殺すぞ?」
 
「正面から鎧で武装した単独での侵入があって、コヨーテ、ストリートラット、ワイルドキャット、ブラウンベアーの団の全滅を確認。被害はさらに拡大しているものと。正体、目的、一切不明です」
 
「単独だと。武器は? 魔法か?」
 
「いえ。それが、その……」
 
「死にてぇのか! 早く言え」
 
「すいやせん! それが、その、鍋蓋で……」
 
「!」
 美月だ!
 
「ほっ、本当です! 本当なんです!」
 
「……そうか。ホワイトウルフは?」
 
「まだ帰っていません。ホワイトウルフさんがいてくれたら」
 
「それは無理だろうな」
 
「え?」
 
「侵入者は恐らくこの男のツレだ。俺が出る。全員、足止めしつつ退避しろ。被害を最小限に抑えろ」
 
「へい! すでにそのように!」
 
「よくやった。この部屋は鍵をかけて、ブルースネーク、レッドスパロウ、てめぇら二人で透明化して見張れ。何かあればすぐにほ」
 
「兄貴ぃ!」
 突如、部屋の外から男の叫び声と、派手な破壊音が鳴り響いた。
 
「攻撃します! 2d6に・でぃー・ろく!」
 
「よっ、避けっ!」
「はーあっ!」
 
 激しい戦いの音が鳴り響く。男たちの怒号が飛び交う。俺は体を起こし、部屋の入り口に目を向ける。
 決して広くない入口だ。外の様子はほとんどわからない。その、決して、決して、広くない部屋の入り口に縁どられて、それは、待ち望んだ彼女は、姿を現した――。
 
「美づ……き……」
 
「西畑さん!」
 
「美月……」
 ああ、美月。美月……。
 
「ごめんなさい、遅くなって。今、助けます!」
 
 視界がぼやける。美月が、美月が来てくれた! ああ、会いたかった。美月……。
 でも、再会を喜んでいる暇などなかった。美月を見つめる俺の視界を、忌々しき背中が遮る。
 
「随分と舐めたマネしてくれたなぁ、女ぁ……」
 
「貴方は……?」
 
「俺は銀鬚シルバー・ベアードの一味、若頭領わかとうりょうヒッポグリフ。俺らぁ舐めた落とし前、きっちりつけてもらおうかぁ」
 
 懐から引き抜かれた短剣が、ランプの灯りを照り返す。


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