第11話「ベッドで騎乗され肥大化する龍」
「……」
俺はベッドに寝転んで、ランプに照らされた天井を見つめていた。
コンクリートジャングルで銀鬚の一味を名乗るドゥエルガルたちに拘束された俺は、そのまま目隠しまでされ、体感四時間ほど運ばれた。
今は全ての拘束を外され、この石造りの部屋に幽閉されている。
三畳くらいの狭い部屋にはベッドがあるのみで、家具らしいものは他に何もない。天井近くには一つだけ小さな窓が開いているが、なんのためにあるのか。外の様子をうかがうには高すぎるし、明かりも全く差し込んで来ない。光源は天井から下げられたランプのみで、電灯に慣れ親しんだ俺にとっては暗く感じる。
「……」
さて、どうしたものか。
俺は整った顔立ちを買われて商品として捕まったらしく、「大人しくしていれば丁寧に扱うよ」という言葉通り、今のところ何もされていない。
それどころか、この分だと食料の心配もしなくてよさそうだ。トイレだけ気になるが、まあ、しばらくは大丈夫そうだし、後で言えばいいだろう。
安全面も生活面も、山積みだった問題が一気に解決したように思える。もう、このままでいいんじゃないか?
俺はなんだか気が抜けてしまった。
ガチャガチャっと突然、扉の方から音がして、俺は思わず飛び起きた。別に驚いたわけじゃない。ただ、誰か来たのなら、このまま寝っ転がっているのもなんだと思っただけだ。
間もなくして、白い長髪の気の強そうな女が扉を開けて入って来た。かなり軽装の革鎧を着ている。美月はドゥエルガルの別名をグレー・ドワーフと言っていたし、小柄なところを見るに、こいつらもドワーフなのだろう。
身体は小さいが、胸は結構デカいな。年齢は若そうだし、服装も顔立ちも育ちの悪さがにじみ出ているが、よく見れば顔はなかなか悪くない。
「おい、大人しくしてろよ~。商品に傷は付けたくないからなぁ」
女はそう言うと、俺のすぐ隣までやって来て、そのままベッドの上に片足を乗せた?
「?」
「大人しくしてろよ? 別に痛くはしねぇからさ。ただ、商品の価値を見定めるだけだからよ」
「なっ、なんだよ」
女が俺の腹にまたがって、いやらしい笑みを浮かべる。
「ヘヘ。お前、人間だよなぁ。人間は、太さはドワーフほどじゃねぇけどよ、長さは結構あるんだよなぁ。太すぎてもいてぇだけだし? アタシは好きだぜ。人間の方がよ」
女はそう言ってニヤァと笑うと、俺の腹の上でケツをずらして下がり始めた。心地よい弾力が、引き締まった二つのふくらみが、俺の下腹部を刺激する。そのままいくと、俺の股間にケツが……。
「おっ、おい! 何やってんだお前」
「だーかーらー、品定めっつってんだろ? 大人しくしねぇと、ちょっとだけ痛い目見て貰うぜ?」
女はそう言うと、懐からナイフを取り出し、その切っ先で俺の頬をはたいた。
「っ……」
なんだ? この女、まさかやる気か?
ふざけんなよ! こんなブスにいいようにされてたまるか!
「おい、下りろよ!」
「ぁあ? お前、まだ立場わかってねぇの? ぁあ!?」
「うぁっ!」
急に左腕に激痛が走る。
「うっわ、人間ってよっわ! ちょっとつまんだだけじゃんよぉ~。まあ、これで力の差はわかったっしょ? 別に傷つけなくたって痛めつけられっし? あんま暴れたらもちろん殺すから。死体でも売れるんだしよ。ちょっと丁寧に扱われたからって、勘違いすんなよ?」
「っ……!」
俺は怒りで絶句し、女を睨みつける。
「アハハハハハハハハ。なにその顔。そそるじゃんよぉ~」
女がナイフで俺の頬をペシペシとはたく。
「……くそっ。くそっ。くそォ! 勘違いしてんのはそっちだろォ!」
「あ?」
「猛獣使:龍! 尊大な右手!」
俺が叫んだ瞬間、俺の右手は一瞬で肥大化し、ズシィンと重たい音を立ててベッドの横の床を叩いた。
「ひぃ!」
「下りろぉ」
「あっ、あっ……」
白髪女は声にならない声を漏らして、俺の上から下りると、一目散に部屋から飛び出していった。
「はぁっ、はぁっ……」
舐めやがって、ブスの分際で。まあいい。これで力の差が分かっただろう。立場をわきまえていれば、品定めくらいさせてやったのに。くそっ!
まあ、いい。今はそれより……。
「……。くっ……! ふっ……! 戻れ! 戻れっ!」
俺の右手は巨大なドラゴンの右手になったまま戻らない。強すぎるが故、やはり、まだ制御できないようだ。熱くなっていた股間の方は、すぐに萎んだのに。
「くそっ! 戻れ! 戻れっ!」
早く戻さなくては。あの女はきっと仲間を呼んでくるだろう。その時、この腕のままじゃ、抵抗の意志があるとみなされて攻撃されかねない。
多少の威嚇につかうのならいいが、使いこなせないとバレたらマズい。ちょっとだけ、ちょっとだけマズいぞ。
「……っ! 戻れ。戻れチクショウ!」
叫ぶ俺の耳に、再び扉の開けられる音がした。