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上場企業における第三者割当増資の手続き(まとめ)

こんにちは。公認会計士としてM&A業界に約10年携わってきました。今回は、上場企業が第三者割当増資を実施する場合の手続きについてお伝えします。
公開会社である上場企業が第三者割当増資を実施する場合、会社法に基づく各種手続きに加え、金融商品取引法上の開示や金融商品取引所規則に基づく手続きも必要となります。本記事では、上場企業における一般的なケースを想定し、実務上必要となる各種手続きやスケジュールを検討する際に役立つ情報をまとめました。
ただし、個別案件の状況によって必要な手続きは一部異なるため、全ての手続きを網羅していない点はご了承ください。

上場企業における第三者割当増資の手続き・スケジュールの概要は以下のとおりです。それぞれの内容は以下で説明いたします。

1. 財務局への事前相談    【X-2週間前まで】
2. 金融商品取引所への事前相談【X-10日前まで】
3. 発行決議(取締役会決議) 【X】
4. 引受先との契約締結    【X】
5. 有価証券届出書の提出   【X】
6. 適時開示(プレスリリース)【X】
7. 有価証券届出書の効力発生 【X+中15日】
8. 目論見書の作成・交付   【有価証券届出書の効力発生以降】
9. 総数引受契約の締結    【有価証券届出書の効力発生以降】
10. クロージング(払込み)   【有価証券届出書の効力発生以降】
11. 登記            【クロージングから2週間以内】

1. 財務局への事前相談

有価証券届出書の提出にあたっては、事前に管轄財務局に事前相談を行う必要がある。

■ 事前相談先(有価証券届出書の提出先)
資本の額が50億円以上の場合は関東財務局となり、資本の額が50億円未満の場合は本店又は主たる事務所の所在地を管轄する財務局となる。

■ 事前相談のタイミング
・有価証券届出書の作成様式が組込方式又は参照方式の場合:有価証券届出書提出予定日の概ね2週間前まで
(ただし、審査対象等第三者割当の場合は極力早めに相談が必要)
・有価証券届出書の作成様式が通常方式の場合:有価証券届出書提出予定日の概ね1ヶ月前まで

■ 事前相談の際に必要となる主な書類
・有価証券届出書のドラフト
・日程表
・(参照方式の場合)利用適格書面

参考URL:関東財務局(有価証券届出書の提出に関する事前相談について)

2. 金融商品取引所への事前相談

上場企業が第三者割当増資を行う場合、遅くとも発行決議の10日前までに、取引所への事前相談を行う必要がある(前例のないスキームや懸念事項等がある場合はさらに十分な時間的余裕を持って事前相談を行う必要があるとされている)。

■ 事前相談にあたって必要となる書類
・プレスリリースのドラフト

3. 発行決議(取締役会決議)

公開会社である上場企業が第三者割当増資を決議する場合、通常は取締役会決議で行うことが可能です。
ただし、例えば以下のような場合には株主総会決議が必要となります。
・いわゆる有利発行に該当する場合
・発行可能株式総数の増加や種類株式の発行の際など、定款変更が必要となる場合
・支配株主の異動を伴うケースで、総議決権数の10%以上の反対通知があった場合
・取引所規則上の大規模な第三者割当に該当するケースで、一定の場合

(注)発行決議に係る取締役会議事録は、有価証券届出書の添付書類に含まれるため、事前に作成しておく必要がある。

4. 引受先との契約締結

第三者割当増資にあたっては、発行会社と引受先との間で、総数引受契約とは別に、個別の契約が締結されることが一般的である。

■ 発行会社と引受先との間で締結される契約の例
・投資契約(一方のみの出資の場合等)
・資本提携契約(双方による出資の場合等)
・資本業務提携契約(双方による出資+業務提携まで定める場合等)

5. 有価証券届出書の提出

上場企業が第三者割当増資を行う場合、私募ではなく募集に該当するため、発行価額の総額が1億円未満である等の例外を除き、有価証券届出書の提出が必要となる(提出方法:EDINET)。
なお、種類株式の発行の場合は、有価証券届出書の提出義務はなく、臨時報告書の提出で足りるとされている。

■ 有価証券届出書の様式と記載事項の概要
・第2号様式(通常方式)   :証券情報+企業情報+添付書類
・第2号の2様式(組込方式):有報等の写しをとじ込む
・第2号の3様式(参照方式):有報等を参照+利用適格書面

(注)上場企業においては、通常は組込方式又は参照方式が採用されることが一般的である。ただし、1年間継続して有価証券報告書を提出していない場合や、有価証券報告書が適正に提出されていない(不適切会計が行われた場合など)には、通常方式によらなければならない可能性があるため、留意が必要である。

6. 適時開示(プレスリリース)

発行決議日において、以下のプレスリリースを開示する(詳細は、有価証券上場規程402条を参照)。
・発行する株式または処分する自己株式等に係るプレスリリース
・業務上の提携又は業務上の提携の解消に係るプレスリリース
・主要株主又は主要株主である筆頭株主の異動に係るプレスリリース
・親会社の異動、支配株主(親会社を除く。)の異動又はその他の関係会社の異動に係るプレスリリース
(注)実務上は、これらのプレスリリースを1つにまとめて開示することが一般的である。

その他、取引所に対して以下の書類を提出する必要がある(適時開示ガイドブックを参照)。
・譲渡報告に関する確約書の写し(提出方法:TDnet)
・割当先が反社会的勢力と関係がないことを示す確認書(割当先が上場企業の場合は不要)(提出方法:Target)
・支配株主との取引状況等に関する報告書(第三者割当に該当し、かつ、当該第三者割当によって支配株主異動が生ずる場合のみ)(提出方法:Target)

7. 有価証券届出書の効力発生

金融商品取引法上、有価証券届出書の提出から効力発生までの一定期間の間は、有価証券の募集を行うことができない。したがって、有価証券届出書の提出日からクロージング(払込完了)までの間に一定の待機期間を設ける必要がある。

■ 有価証券届出書の効力発生までの待期期間
・原則として、中15日
・例外として、有価証券届出書の作成様式が組込方式又は参照方式の場合、中7日に短縮可(ただし、企業内容等開示ガイドライン8-2④に定める審査対象第三者割当の場合は、原則として短縮不可)
・例外として、特に周知性の高い企業(企業内容等開示ガイドライン8-3)の場合、待期期間の撤廃が可能

(注)金融商品取引法上、有価証券届出書の待機期間の短縮又は撤廃が認められるケースでも、会社法上は募集事項の通知・公告(有価証券届出書の提出)から払込期日まで2週間(中14日)を空ける必要があるため、実務上は中15日以上を空けることが一般的である。

8. 目論見書の作成・交付

有価証券届出書の効力発生後、クロージング(払込み)までの間に、発行会社は引受先に対して目論見書を交付する(ただし、不要となる一定の例外あり)。
目論見書の記載事項は有価証券届出書とほぼ同じであり、有価証券届出書の効力が発生している旨の記載がなされる。

9. 総数引受契約の締結

有価証券届出書の効力発生後、クロージング(払込み)までの間に、発行会社と引受先との間で総数引受契約を締結する。

■ 総数引受契約の記載事項
・募集株式の種類及び数
・募集株式の払込金額
・増加する資本金
・増加する資本準備金
・払込期日又は払込期間
・募集株式の割当方法
・払込取扱場所

10. クロージング(払込み)

募集株式の引受人は、払込期日又は払込期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければならない。
払込みが完了した場合、開示事項の経過としてプレスリリース(払込み完了のお知らせ)を開示することが一般的である。

11. 登記

払込期日(払込期間を定めた場合は払込期間の末日)から2週間以内に株式発行に係る登記を行う必要がある。
なお、自己株式の処分の場合、登記事項に変更は生じないため、基本的には不要となる。

■ 登記申請書類
・取締役会議事録
・総数引受契約
・払込みがあったことを証する書面
・資本金の額が会社法及び会社会計規則の規定に従って計上されたことを証する書面
(注)その他の必要書類の有無については司法書士に確認が必要である。



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