異文化に対する態度について
一 異文化に対する態度について
異文化に対する態度として、複数の民族的「他者」に対して,自己の民族とは異なった存在であり,かつ自分たちが他者よりも優越する価値を有するという倫理的態度をとる自民族中心主義がある。他の文化を否定的に判断し、自らの文化を唯一・最高のものとみなす点に特徴がある。
これに対し、各文化は個々の自然・社会環境への適応を通じて形成されてきたもので,それ自身の価値を有しており,したがって互いに優劣や善悪の関係にはないという文化相対主義の考え方もある。
確かに、人間は特定の文化の中で生まれ成長して、自分が育ってきた文化を自然なものと考えるようになる。したがって、他民族のもつ異文化に直面すると,それを不自然,不合理,まちがったものとみなしやすい。こうした態度は程度の差はあれ,すべての民族にみられるから特段不自然なことではない。
しかし、自己の文化に対する誇りと自尊心を持つことは大事なことではあるものの、これが行き過ぎると他民族への悪感情による戦争や虐殺といった悲劇を生じることになる。
たとえば、第二次世界大戦時のナチスドイツがユダヤ民族に行った虐殺は、自民族中心主義の行き過ぎた結果である。ナチスドイツの基本的な思想は、優生学的思想に基づいてドイツ民 族による共同体の形成し、ドイツ民族が至上であり、反ユダ ヤ主義と反共産主義を主張して、国家をまとめ上げようとした。その過程で、ユダヤ人に対する虐殺行為が行われ、ホロコーストが発生している。自民族中心主義は、個々人が内心で思っているだけなら罪はないが、国家がこれを利用し国民の感情を煽るようになると、取り返しのつかない結果を生じかねず、政治的に利用させないよう注意する必要がある。
民族の尊厳を確立するために、自民族のアイデンティティを確立させ、自民族は他民族とは異なるという意識を持つことは必ずしも悪いことではないと考える。しかし、自民族の文化に価値があると考えることと他民族の文化に価値がないと考えることが直結するわけではない。自民族の文化に価値があると考えるのと同等に他民族の文化の価値も認め尊重することは十分両立する考え方だと思う。自民族を中心に考えたいと思う自己が存在するのと同様、他民族にも自己の文化を尊重し価値を認めたい人が存在するというのは、すこし想像力を働かせれば想像がつくことだ。この点で、自民族中心主義には自分勝手で独りよがりなエゴイズムのにおいがする。交通環境が進化しすぐに世界と交流できることができる現代社会において、もはや文化や経済や政治を自国だけで存立させることは難しく、自民族中心主義を唱え続けるのは無理がある。各文化の価値を認め尊重しようとする文化相対主義に立ちながら自民族の尊厳と文化の価値を確保するのが健全であると考える。
二 ヘイトスピーチについて
異文化に対する態度として、ヘイトスピーチがある。ヘイトスピーチとは人種・宗教・性的志向・性別などの要素に起因する「hate(憎悪・嫌悪)」を表す表現行為を指す。いわゆる「差別用語」に加え,偏見や憎悪に満ちた文章や発言が用いられる。
ヘイトスピーチはもちろん許される行為ではないが、これが行われる背景には人間特有の心理的プロセスがあると言われる。最近では、新型コロナウィルスが蔓延した状況下で不当な差別や偏見に基づくヘイトスピーチが行われた。国籍、職種、企業、県外ナンバーといったカテゴリーや属性だけで「危険」と判断したようだ。人には,細部を見ずにラベルで判断してしまうような認知プロセスがあると考えられている。あとから冷静になって考えてみれば、おかしなことも危機的な状況下では我を忘れてヘイトスピーチを行ってしまう状況もある。したがって、ヘイトスピーチの問題は、強く批判されるにもかかわらず、なかなかなくならないのが現状である。とくに、自己の思想や主義主張を頑なに維持している人にヘイトスピーチを実行してしまう傾向がみられる。また、そこまでいかなくとも、他の思想や主義主張への理解が進んでいないと、誤解や偏見からヘイトスピーチを行ってしまう傾向があるようだ。
自分と同じように他者もその存在が尊重されるべきであるという当然の価値観への理解を前提に、異なる文化に対する態度を採るべきだと考える。
三 まとめ
異文化に対する態度として、自民族中心主義やヘイトスピーチの根底にあるのは、自分とは異なるものに対しての排除する心理である。しかし、ひとは一人だけで生きていくことはできず、同様に自民族だけで存立することもまたグローバリズムが進んだ世界の中では難しいだろう。自分と異なるものを排除し続けていては進化し変化し成長し強くなっていくことはできないのではないだろうか。自分とは異なるものの存在を認め、敬意を持ち、そして時にはその文化や考え方を取り入れることではじめて、成長し環境に対応しながら存在し続けることができると考えられる。そういう意味では、自民族中心主義やヘイトスピーチは一見勇ましい主義主張に見えるかもしれないが、かえって自己や自民族を弱く衰退させる原因になりかねず、採りえない主義主張と考える。
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参考文献
(1)ホロコースト百科事典「ホロコーストについて」
https://encyclopedia.ushmm.org/content/ja/article/introduction-to-the-holocaust 2024年1月16日アクセス
(2)法務省 「ヘイトスピーチはなぜ生まれるか」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken05_00031.html 2024年1月16日アクセス
(3)世界大百科事典 「自民族中心主義」
https://kotobank.jp/word/ 2024年1月16日アクセス
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