BBC記事 『日本は未来だった、しかし今では過去にとらわれている-BBC東京特派員が振り返る-』を読んで...


●はじめに

こちらの、
2023年1月22日に配信された”BBC NEWS JAPAN”の記事について。

いろんなとこでシェアされているけれど、ちょっと気になるところがある。
勿論こちらの記事の指摘には一定の理解もできるし、
”日本が行き詰まっている状態”であるのも否定しない。

しかし、これが現在のNIPPONのリアルとして世界に発信され拡散されていくのはちょっと違うと思う...そりゃ弱体化してることは否めない。
だけどそれって、日本だけでもないはずだ。強国たちも結構、弱ってる…

かつてのメソポタミアやエジプト文明の国々がことごとくそうじゃなくなったように、栄枯盛衰の絵巻物の順番がそろそろ自分たちにも回ってきた感があるのは否めないわけで、だからこそ、
今回の記事、些細なことかもしれないけれど、モヤるところも多いのだ。

なので、気になった点を幾つか...。備忘録として...問いとして...



●ファクトチェックの甘さのあれこれ…

(1)〜(4)は以下の記事より抜粋

例えば、冒頭部分にあるこちらの記事内の指摘…↓
(1)新しく入居した途端に、マイホームの価値は購入時の値段から目減りする。40年ローンを払い終わった時点で、資産価値はほぼゼロに等しい。
As soon as you move in, your new home is worth less than what you paid for it and after you've finished paying off your mortgage in 40 years, it is worth almost nothing.

これって一概には言えないのでは?
《土地付戸建》か《集合住宅》、そして《区域》にもよる。
英文で書かれたテキストと照合しても、
単に"home"の表記があるだけで、そこら辺がザックリしている...

だけど”40年ローン”っていうのであれば、
それなりの”estate”を含む大きなお買物を指すだろうから、
過去40年分の”路線価”の変動等も調べて言ってるのかしら?、
と勘繰ってしまう。

もし仮に、資産価値が”ほぼゼロ”になるのであれば、
不動産の相続で揉めるケースなんてほぼ無くなるじゃないか!?、
と思うんだけど...

それと、世界のスーパーリッチに買い占められて、
普通に働くロンドンっ子が手が出せないくらい高騰しているロンドンの住宅事情について、先の2度の大戦で戦った上級陸軍士官エリック・ヘイズ少将をルーツに持つBBC東京特派員である筆者はどのように考えるのだろうか...

(余談だが、いずれTOKYOも政府主導の『東京大改造2030』事業の推進にもよって、イギリスのLONDON並みの住宅事情へと追随しそうだけども...、
現にKYOTOの不動産だって、既に世界のスーパーリッチの投資先や買い占め先になってるよね…そっちの方が心配かも…)
*

次にこちら...
(2)1980年代後半に、日本国民はアメリカ国民よりも裕福だった。
しかし今では、その収入はイギリス国民より少ない。
In the late 1980s, Japanese people were richer than Americans.
Now they earn less than Britons.


こんなに簡単に、”収入は"イギリス国民より少ない”と言い切れるのかなあ...
一体どこに照準を置いて語っているんだろうか...

そこで、『世界の統計2022』等で、GDPやGNP、そして、GIPなどの比較をリサーチしたが、BBC東京特派員が語るようなデータは見あたらなかった...

参考)世界の統計2022

そもそも国によって物価指数も税額も、社会保険の内容も違うわけで、
裕福さの度合いをこんなふうにザックリと、ダータの参照なしに断言できるもんなのなのだろうか?、っていう疑問がある...

次に、友人から教えてもらった以下の”世界銀行のデータ”(1人あたりの調整済み純国民所得(現在の米ドル))を参照してみた。残念ながら、イギリスのデータが2018年迄しか記載がなかったため、それ以降の比較ができないのだが、2018年時点の1人あたりの『純国民所得』をイギリスと日本とで比較すると、イギリスが”36,248”、日本が”31.071”とあるように、日本の収入が僅かに低いことが伺い知れる。

が、しかし、その後の2020年以降、イギリスがコロナによる大規模なロックダウンによって、GDP(2020年4-6月期)を−▲20%超にダウンさせていったことなどを考慮すると、今回の記事が発信された2023年1月時点をはじめ、または、その直前の日本の収入がイギリスより収入が少ないと闇雲に断言することには、やや早急すぎると言えるのではないだろうか…

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65160?site=nli


また、現在のイギリスの経済事情の深刻さは英国が抱えるチャヴ問題を含めた失業問題もあって日本よりずっと際立っているようにも見える。

実際、年末から続くロイヤル・メイルや、NHS(英国の国民保健サービス:National Health Service)の医療従事者らによる大規模なデモ報道を見聞きするにつれ、日本は未だギリギリのすんでのところで踏ん張っている肌感がある...だからこの記事の筆者の言葉を額面通り受け取るのは少し怖い。


更にこちらも…↓
(3)バブルは1991年にはじけた。
東京の市場では株価と不動産価格が暴落し、いまだに回復していない。
Then in 1991 the bubble burst.
The Tokyo stock market collapsed. Property prices fell off a cliff.
They are yet to recover.

….と、BBC東京特派員の方はサラッと書いているけれど、
元々、日本のバブル期の不動産相場が突然変異だったわけで、
"いまだに回復していない(recover)"というよりも、
”本来の姿に戻った”くらいに考えた方が乖離が少ないのではないだろうか。

それに、株価だって全部がそうじゃない。
一体どういったソースとエビデンスから今回の記事が生まれたのかが謎だ..

*

他にも、マンホールの件と公債の件、免許更新の話も、過疎化した村民の話も、安倍ファミリーを含む政界の件も、都知事の話も、一見言い得て妙ではあるけれど、今回の記事を執筆したBBC東京特派員 ルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ氏の周辺にたまたま居合わせた人々からの断片的な発話と情報を数珠つなぎしに繋ぎ合わせたモノローグっぽさが色濃くて…自分にはどうにもしっくりこないのだ...

(ああ、そうだね、そういった考え方もあるよね…)とは思うけれども、
そのとき何がしかについて呟いた人々の言葉がどこまで正確に世の中を表して代弁しているかどうかはまた別の次元じゃないだろうか...

人間って誰しもサラッと感覚的にあまり考えないで話すことがあるわけで、
むしろそこにこそ本音が見えるっていうケースも無いわけではないが、
それが理論的であるかどうか、または、真実かどうかは分からない。

(個人的には今の混沌とした気運には戦後の戦争責任の有耶無耶さや、敗戦国が故のやるせ無さ、そして例のツボ系問題みたいな自国だけでは語り切れないディープな闇の部分が多分に潜んでるんじゃないかって思ってる...)

それと、本記事内の『ハーフ』についての件でも取り上げられている、
”小池百合子都知事との会話”について…、
それだってインタビュー時間にちょっと聞く程度じゃ(都知事の肩を持つわけではないが…)あたり障りのない模範回答しか引き出せないんじゃないだろうか…いきなりインタビュアの英国と日本にルーツを持つ娘の話を持ち出されても、その娘さんについての詳細を知らなかったら、具体的なアドバイスは難しいわけで、フワッとした相返答になるのも仕方がないと思われる。
それだって、初めて出会うイギリス人が無難な天気について語らう世界となんら遜色ないと思うんだけれど...

だから、こういう深いところにはまるきし触れない雰囲気美人な印象のテキストの羅列が英国が誇る”BBC”という権威ある王冠を被って世界にたれ流されていくとに恐ろしさを感じるのだ。


▶︎BBCという権威を笠に着るということ

かつてBBCの独占スクープとして、1995年にダイアナ元妃の独占インタビュー(※)が行われた。
結果として、このダイアナ元妃のTVでの発言が問題となり、
当時のチャールズ皇太子とダイアナ妃が離婚に至ったのは有名な話だ。
このBBC独占インタビューは、2022年の英国のエリザベス2世崩御の際にも幾度となく英国王室を振り返る特番などで報道されており、英王室の歴史を語るうえでも、そして放送倫理を議論するうえでも重要な案件だ。

そして、その王室を震撼させたダイアナ元妃の独占インタビュー報道から26年後の2021年、これらのインタビューが当時のBBC記者とその関連部署による組織的な不正によってなされたことが大々的に明らかになった。紙面の都合上、これらの事件についての詳細は差し控えるが、これらの事実から我々が学べることは、やはり、どんなにキッチリしたメディアの報であっても、伝え聞かされる物事の本質は二度見で疑わないとダメだ…ということだ。
ダイアナ元妃も弟のスペンサー伯爵も、あの天下のBBCの言うことだから…とあっさり信じちゃったんだと思う。そりゃそうでしょ、まさか、あのBBCが、ニセの銀行口座記録や、堕胎手術のニセ領主書を作って(当時の)皇太子妃とその弟に提示するなんて、誰が考えられるだろうか!?
(ミーハーだけど、このあたりの話題に踏み込んだ今シーズンのNetflixのドラマ『ザ・クラウン』は秀逸)


●BBC東京特派員という役職が持つ権威性について


次に、今回の記事を執筆された、BBC東京特派員、
ルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ氏(※2)について…
彼は、大学時代からアジアへの眼差しを持っておられた方で、
台北市に留学中に出会った日本人の女性とご結婚された方だ。

更には、以下(4)のようなテキストを掲げておられることからも、
日本に好意的なお気持ちを持って、真摯に懸念されているのだろうな…
ということは感じられる。

4)...東京での最後の日、私は友達のグループと一緒に年末のストリートマーケットに行きました。ある屋台で、私は美しい古い木工道具の箱を調べました。少し離れたところに、豪華な絹の着物を着た若い女性のグループが立ち、おしゃべりをしていました。正午に小さなレストランに押し込み、サバのグリル、刺身、味噌汁の「定食」を食べました。食事、居心地の良い環境、気さくな老夫婦の気遣い、すべてがとても親しみやすく、居心地の良いものになっていました。
On one of my last days in Tokyo, I went with a group of friends to a year-end street market. At one stall I rifled through boxes of beautiful old woodworking tools. A short distance away a group of young women dressed in gorgeous silk Kimonos stood chatting. At midday we squeezed into a tiny restaurant for a "set lunch" of grilled mackerel, sashimi and miso soup. The food, the cosy surroundings, the kindly old couple fussing over us - it had all become so familiar, so comfortable.


が、しかし、うがった見方かもしれないけれど、
このBBC東京特派員 ルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ氏(※2)が
表する”beautiful old woodworking tools”といったような、ちょいスノビッシュな物的嗜好や、”gorgeous silk Kimonos”を纏う若い女性が集う街並みに囲まれる居心地のよさって、それって、ティピカル・ジャパン(日本独特なもの)なのだろうか?といった戸惑いもあってか、そういった物事や空間をよしとしそこに美徳を感じる感性というか感覚では、この国のややこしいこみ入った諸事情を定点観測するのはちょっと難しいんじゃないだろか…と考えてしまうのだ...sorry.

ルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ氏(※2)が懐古する、
そんなノスタルジ〜溢れるTOKYOって、
多分、それっ、カブキ、フジサン、ゲイシャ、スシ…♬と変わらんぜよ…


▶︎まとめ

今回のルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ氏(※2)の指摘の根幹は、いまの日本の”経済”が停滞していることへの警鐘だと考えられる。

だから、その”経済”を視点に考えていくと、実際に弱体化してるのは日本だけではなく、日本を取り巻く強国(米も英国も…)も斜陽だといった法則を見出すことができる。そして、そこらへんを突き詰めて考えていくと、
やはりこれはもう、資本主義の限界という話になるんじゃないだろうか。

しかしながら、その辺りの視点がいっさい描かれておらず、また、指摘する点のデータやソースのファクト・チェックが曖昧なまま、ただただ日本が衰退していくことへのある種のサディズムさとセンチメンタルさによる甘辛なモノローグは匿名のヤフコメ民の長文コメントとなんら遜色ないのではないだろうか…

もし仮に、これらの記事がBBCからの発信でなければ、
これほどまでに我々日本人は有り難がって拝読しリツイートやシェアしていったのだろうか?…だから、(そのとおり!)、(同感!)と、(よく言ってくれた!)などと….手放しで今回の記事が瞬時にシェアされていくことにある種の怖さを感じるのだ。

そういう権威性のあるものに昔から弱いというか、巻かれやすいというか、こういう体質こそが、実は昔から続くこの国の情弱さではないだろうか….
それが全てとは言わないけれど、実際、神風なんて吹かないわけで….

憂えるべきは、そういったパワーにおもねてしまいがちなこの国の日和見的な"気分"ではないだろうか…景気の”気”は気分の”気”ではないけれど、そういった気分と気運がムンムンtとたちこめる限り、今の日本の現状では権力と権威が集中した老害たちからまだまだ逃げることができないだろうから…

Text by naok fujimoto

以下、参考資料

▶︎日本は未来だった、しかし今では過去にとらわれている 
BBC東京特派員が振り返る(2023/01/22)
byルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBC東京特派員

*

▶︎Japan was the future but it's stuck in the past
By Rupert Wingfield-Hayes(Tokyo correspondent)

*

(※)BBCはダイアナ元妃インタビューで「欺いた」 調査委が報告書公表(2021年5月21日)

*

(※)英BBC,ダイアナ元妃インタビューめぐる不正で謝罪
刊行物『放送研究と調査』2021年7月号 掲載


(※)BBCのダイアナ妃暴露インタビューの真実について、『ザ・クラウン』シーズン5で描かれていないこととは
暴露インタビューは、BBCの記者がダイアナ妃の弱みにつけ込んで敢行したものだったことが明らかに (BAZAR 2022/11/16)

*

(※2)BBC東京特派員:ルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ氏

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?