本屋さんのひとりごと

 私はある本屋さんで働いています(アルバイトですが)。働き始めてもうすぐ1年が経とうとしているのですが、働き始めてからというもの、自身の趣味の幅だけではなく、売れ線の確認も含めて様々な本を読むようになりました。それでもお金には限界があるもので、それほどたくさんの本を読むことはできないですが…。

 そこで今回は最近読んだ、相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』について触れたいと思います。

 どうしてこの本を読もうかと思ったかというと、本の帯で綾辻行人・有栖川有栖、御両人が本の帯でこの本を大絶賛していたために本を買おうと決心しました。綾辻行人も有栖川有栖も私が好きな作家さんなのです。ハードカバーは値段が少し貼るけれど(金欠学生ゆえの苦労ですが)、絶対に面白いだろうと思い、断腸の思いで本を購入しました。

 家に帰り、本の背表紙側の帯を見ると、全国の書店員さんの絶賛メッセージがずらり…。そこにはどれも「伏線が」「まさかそうなるとは」「してやられた」とありました。有栖川の書評には「この探偵(翡翠さん)のどこがすごいかは…」とありまして、きっと翡翠さんに関してのどんでん返しが起こるのだろうとか、どれが伏線になっているんだろうかと、邪推しながら本を読んでしまいました。

 その結果…この小説の2大どんでん返しを序盤のうちに見抜いてしまい、後半はなかなかページを捲る手が進みませんでした…(最後まで読み通してどちらも当たっていました)。

 この本を酷評したいわけではないですし、むしろこの本は面白かったです。幾重にも重なった伏線の連結でできているこの本は、歯車のようにカッチリ噛み合わさった機械仕掛けのお城のようでしたし、トリックの叙述や人物の動作描写がとても緻密で繊細で、細部まで表現されていてとても好きでした。登場人物の二面性の描写も興奮するものがありました。

 では、何が言いたいのかということですが、「トリックを当てた自分、凄い」という話ではなくて、本の売り方、つまりは帯に関する話が少ししたかったんです。

 今回のように、著名な作家のネームバリューを帯に出したり、「書店員絶賛!」という打ち出し方をしたり、というやり口は最近よく見ます。別にそれが悪いというわけではないです(今回、私がこの本を手に取ったきっかけもそうだったので)。むしろこのやり方は、売り上げが年々落ちているこのご時世において妥当だとも考えています。

 だけどもう少しだけ、少しでいいから帯の内容を精査してほしかったです。私があれこれと邪推をしながら読んでしまったのにも非はあるので何とも言えませんし、私が手に取ったのが第二重版だったこともあり、様々な方の感想を盛り込みたかったという意図も勿論汲み取れるんですけどね。

 話の内容を打ち出さずにどのようにして本の帯を書くのかと言われて意見が出ないのも少し歯痒いですし、いちゃもんのようになってしまうのも本意ではないですが、それでも浮かばないのでここで留める次第です。

 収まりが悪いですが、この本を通して思ったことでした。重ねて言いますが、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の本自体の批判ではないです。何度も言いますが、とてもおもしろい作品でしたのでぜひ読んでみてほしいです。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?