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美術への挑戦 宇賀神修『フェルメール・コネクション』

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はじめに

 今回は、宇賀神修の『フェルメール・コネクション』についての読書メモです。
 むかしむかしの子どもの頃、一度、母に連れられて印象派の美術展を訪れたことがあります。当時、10歳に満たないくらいでしたので、絵を見たかったというよりは、母と出かけたかった、そんな記憶があります。印象に残っているのは、一つ一つの絵ではなく、待ち時間に母と話した内容であったり、出口の物販コーナーで「モネの『睡蓮』が好きなの」と言っていた母の顔であったりと、絵とは関係のない話でした。
 それが何の因果か、最近、1人で美術館に行くようになるほどに、絵に興味を持つようになりました。昨年のフェルメール展に行った記憶もはっきりと残っており、その後、画集(の写真集)なども買ったりして、のめり込んでいるところに、この作品を店頭で見たんです。
 普段は、店頭にある売れ線の本で気になるものをすぐに買うのではなく、一度家に帰って自分の嗜好と合うかなぁ、なんて考えてから買うこのが多いのですが、今回は表紙の『真珠の耳飾りの少女』に魅入られてしまったのもあって購入しました。
 また、帯の売り文句には

『ダ・ヴィンチ・コード』から10年、新たな傑作ミステリーが誕生!!

と書いてあったので、これは間違いないと思って買ってしまいました。

(前に帯に踊らされていい思いをしなかったのに懲りずにやってしまった…)
⇩以前の記事は以下から⇩

あらすじ

 長崎の旧家・今村家の蔵でフェルメールの真作が見つかった。新聞記者の森本豊は、調査のためオランダから来日したクララ・ブリンクマンと現地へ向かう。そこで見せられた一緒に発見されたという古い手紙、すべてはここから始まった。17世紀の偉人たちの秘められた交友と第二次世界大戦の封印された秘密を探る森本たちは、ロスチャイルド家とナチ残党の暗闘に巻き込まれていく―。史実とイマジネーションが緻密に織り込まれた、壮大なスケールのミステリ巨編(Google Booksより引用)

感想

▷本を通して

 今回は、先に本を通して感じたことについての感想を書こうと思います。今回タイトルに起こしたように、この『フェルメール・コネクション』はいわば「美術への挑戦」です。『ダ・ヴィンチ・コード』を模して書かれたのもあり、「美術」という題材を扱いながら、歴史的史実に基づいた物語となっています。作中でも出てきますが、フェルメールとスピノザとの交流を裏付ける史料は現存していないんですが、作中では交流が示唆されています。そこにフェルメールの作品を絡めていくのは至難の技といえるのではないでしょうか。本の末尾にもあった参考文献などを基にして、たくさんのプロットを精密に掛け合わせていく根気、そして宇賀神先生のフェルメールへの愛情が素晴らしいなぁと思いました。
 そういった意味合いを込めて「美術への挑戦」であり、その点を取り上げるとすれば、面白いかどうかはさておき、とても価値のある小説なのではないかなと思います。

▷本の感想

 先程、「美術への挑戦」という点では、面白いかどうかはさておき、とても価値がある、という表現をあえてしました。内容を取り上げるのであれば、少し今一つであったような所感を覚えました。ちょっと説明が長い気がして読み飛ばしたくなるような箇所が数点あったり、普段の会話で1人の分量がそこまで長くなることないだろ…とか、役割語が鼻についたり…なんでそこまで主人公に好意を寄せてるのこの人?主人公も簡単に受け入れてるじゃん…奥さんの回顧とか由紀さんのこととかもっと掘り下げたらクララが登場しなくてもよかった可能性すらあるのに…。と、こんな感じで、少し納得しない部分が多くありました。
 あと、これは僕自身の勘違いですが、フェルメールの絵画に関する謎解きが純度100%の物語かと思っていたのですが、どちらかというと、フェルメールを絡めた当時を題材にしたミステリーだったんですね。だから、フェルメールを知らなくても読めるし、僕のようにフェルメール作品を期待していると少し肩透かしを食らってしまいます。

おわりに

 内容については個人的に少し残念なところが何点かありましたが、やはり「美術への挑戦」という点では一級品の作品だったと思います。フェルメールについて知らなくても楽しく読める内容になっているので、精巧なミステリーが読みたい、歴史モノの小説が読みたい、という方がいれば是非。宇賀神先生の次の作品も期待したいです。

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