「難削減セクター」における需要と技術革新が、二酸化炭素除去(CDR)への依存をどのように軽減するかを検証

メタデータ

タイトル: Reducing sectoral hard-to-abate emissions to limit reliance on carbon dioxide removal
引用フォーマット: Edelenbosch, O.Y., Hof, A.F., van den Berg, M., et al. (2024). Reducing sectoral hard-to-abate emissions to limit reliance on carbon dioxide removal. Nature Climate Change, 14, 715–722. https://doi.org/10.1038/s41558-024-02025-y
ハッシュタグ: #脱炭素 #産業排出 #気候変動 #持続可能性 #BECCS #IPCC #1 .5度目標
ひとことでいうと: 「難削減セクター」における需要と技術革新が、二酸化炭素除去(CDR)への依存をどのように軽減するかを検証。


どんなもの?

この研究は、産業、農業、建築、輸送といった「難削減セクター」に焦点を当て、これらのセクターでの排出削減が炭素除去(CDR)技術への依存度をどう下げられるかを評価しています。1.5℃目標に適合するシナリオを用いて、消費需要の管理や技術的介入による排出削減の効果を示し、特にバイオエネルギーと炭素回収・貯留(BECCS)の必要性が大幅に減少する可能性を示しています。食生活の変更やエネルギー効率化がキーとなり、排出量削減と持続可能な開発を両立させる道筋を提供しています。


先行研究は何をしていて、何が足りない?それに対してこの研究はどこがすごいの?

先行研究では、1.5℃目標達成のために残留する二酸化炭素排出(主に産業、輸送、農業分野)をCDR技術で相殺するシナリオが多く採用されています。しかし、大規模なCDRには環境リスクや社会的な反発がつきものです。特に、バイオエネルギーと炭素回収・貯留(BECCS)は大規模な土地利用を必要とし、食料安全保障や生物多様性への影響が懸念されます。従来のシナリオが「CDR依存」だったのに対し、本研究は需要管理と技術開発によりセクターごとの削減を最大限追求し、CDRへの依存を減らす新しいアプローチを提示しています。


目的設定や手法はどこにあり、どのようにつながっている?

目的: 1.5℃目標を達成するために「難削減セクター」における排出量を最小限に抑え、CDR依存度を軽減することです。

手法:

  1. シナリオ分析 - 「需要管理」「技術革新」「両者を組み合わせた」3つのシナリオを設定し、各セクターの排出削減を評価。

  2. IMAGEモデル - 総合評価モデル(IMAGE)を用い、各シナリオにおける排出量や土地利用、エネルギー消費の変化をシミュレーション。

  3. SSP(社会経済シナリオ)適用 - 世界の人口・経済の異なる前提条件を含むSSP1、SSP2、SSP3に基づく解析を行い、シナリオの頑強性を評価。


どうやって有効だと検証した?結果の分析の際に何を示した?

検証方法:

  • 各シナリオでの残留排出量の減少、ならびにBECCSの使用量の変化を比較。

  • 特に需要管理シナリオでは、農業での食生活の変化が大きな影響を与え、BECCS使用量を最大0.5~2.2 GtCO2eまで抑制できることを示しています。

結果:

  • 「需要管理」と「技術革新」シナリオで、2060年時点の残留排出量が約5.6~7.1 GtCO2eに減少。

  • BECCS使用量は基準シナリオの10 GtCO2e/年に対して、「需要管理」シナリオでは0.5~2.2 GtCO2e/年、「技術革新」シナリオでは1.9~7.0 GtCO2e/年と大幅に削減。

  • 農業セクターでは、非CO2ガス排出の大部分を占める残留排出が減少。需要管理シナリオの食生活転換と人工肉導入でさらに削減が期待される。


議論はある?

本研究は、CDRの環境・社会リスクを考慮しつつ、持続可能な道筋を示した点で重要です。しかし、各セクターでの技術・行動変化が完全に実現することを仮定しており、社会的受容性や個人の行動変容に関する課題が残ると指摘されています。また、特に途上国における新技術導入や生活習慣の変化には追加の社会的支援が必要です。


専門用語

  • CDR(Carbon Dioxide Removal): 二酸化炭素除去技術

  • BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage): バイオエネルギーと炭素回収・貯留技術

  • SSP(Shared Socioeconomic Pathways): 気候変動影響評価で使用される複数の社会経済シナリオ


定量的な前提情報

  • 1.5℃目標: 2100年までに地球の気温上昇を1.5℃以下に抑える目標

  • BECCS使用量: シナリオにより最大10 GtCO2e/年から0.5 GtCO2e/年に削減可能


この論文を読む前に把握すべきこと

  • パリ協定の目標: 世界の気温上昇を産業革命前比で2℃未満、可能であれば1.5℃以下に抑える。

  • 難削減セクターの定義: 産業、輸送、農業、建築など、排出削減が技術的・経済的に難しいとされる分野。

  • CDR技術の課題: BECCSや直接空気回収などのCDRは、環境負荷やコストの問題がある。


ブログ記事案

本論文は、パリ協定の1.5℃目標を達成するために、技術的に困難な「難削減セクター」に焦点を当てています。既存のシナリオでは、CDR技術(特にBECCS)に強く依存しがちである一方で、大規模CDRの環境的・社会的リスクが課題とされてきました。しかし、本研究が提案する「需要管理」と「技術革新」に基づくアプローチにより、BECCSの必要性を最大90%近くも減らせる可能性が示されました。特に農業での食生活の変化や効率化が鍵となり、非CO2排出量の削減や土地利用の改善に大きな役割を果たします。

エネルギー集約型産業や建築、国際輸送といった分野での技術革新を促し、コスト効果と持続可能性を兼ね備えた道筋を示す本研究は、環境政策の新たな道しるべとなるでしょう。技術や行動の変化を実現するための社会的支援も含めた包括的な気候政策のあり方について、今後の議論が期待されます。

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