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再生可能エネルギーのカニバリゼーション効果:ヨーロッパ電力市場における他国への影響

筆者は、再生可能エネルギーの普及に伴う市場価値の低下、いわゆる「カニバリゼーション効果」が、欧州全域の電力市場において顕著になりつつあることを指摘しています。特に、風力発電と太陽光発電の市場価値が国内市場だけでなく、隣接する市場での再生可能エネルギーの普及によっても影響を受けることが明らかにされました。このようなクロスボーダー効果は、再生可能エネルギー市場の価値をさらに押し下げる要因となり得ます。

既存の研究とこの研究の新規性

従来の研究は、主に国内市場内での再生可能エネルギーの普及がその市場価値に与える影響に焦点を当てていましたが、本研究では初めて、国境を越えたエネルギー市場間でのカニバリゼーション効果を定量的に評価しています。具体的には、30の欧州の電力市場を対象に、2015年から2023年までのデータを用いて、風力および太陽光発電の普及が国内および隣接市場に与える影響を分析しました。この研究は、再生可能エネルギーの普及と市場の相互接続性が、再生可能エネルギーの市場価値にどのように作用するかを解明する点で新規性を持っています。

主な研究結果と政策的示唆

本研究によると、風力発電の市場価値は、国内市場における風力発電の普及によって0.62ポイント、隣接市場での普及によって0.48ポイント低下することが示されました。一方で、太陽光発電の市場価値への影響はより顕著であり、国内市場での普及によって1.39ポイント、隣接市場での普及によって2.38ポイントも低下することが明らかになりました。この結果は、風力発電が時間的および地理的により広範囲にわたって発電されるため、太陽光発電よりも市場価値の低下が緩やかであることを示唆しています。

さらに、電力市場間の接続性が高い場合、国内市場での再生可能エネルギー普及による価値の低下を緩和する一方で、隣接市場からの影響を増幅させることも分かりました。特に、風力発電の場合、接続性が高い市場では、再生可能エネルギーの供給が過剰になる時間帯において市場価値の低下を抑制しつつ、隣接市場からの影響を受けやすくなります。一方、太陽光発電では、このトレードオフは風力発電ほど顕著ではなく、接続性の高さが市場価値に与える影響は限定的であることが確認されました。

今後の研究課題

本研究では、再生可能エネルギーの市場価値に影響を与える要因として、風力や太陽光発電の普及度、電力市場間の接続性に焦点を当てましたが、今後の研究では、電力市場における柔軟性や硬直性がどのように市場価値に影響を与えるかをさらに探求する必要があります。また、再生可能エネルギー発電の地理的・時間的な分布に基づいた政策立案も重要です。

欧州エネルギー政策の文脈において、この研究の結果は非常に示唆に富むものです。風力発電は市場間の接続性を高めることでその価値を安定させることができる一方、太陽光発電は短期的なエネルギー貯蔵など、他の補完的な対策が必要であることが示されています​。

Stiewe, C., Xu, A. L., Eicke, A., & Hirth, L., 2023. Cross-border cannibalization: Spillover effects of wind and solar energy on interconnected European electricity markets. Applied Energy, Volume 321, pp. 10457-10472.

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