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【アート】放蕩息子、放蕩娘、穢れ、旅の旅

・あの放蕩息子と放蕩娘は、たしかに、父母の家に帰ってきた。帰って、きた。

・だが、そこは故郷でありながらも以前の故郷ではないことに、それくらいのことには、そう、気がついていた

・旅

・すでに、村の人々は、その父母の子のことを、放蕩息子、放蕩娘、と呼び憚らず、だれもが、その子に触れると、穢れ、が感染るとして。追いやることはもうしなかったが、触れることも、もうしなかった

・旅。だから、そう、旅。放蕩息子、放蕩娘たちは、あたらしく、旅に出る。それは、故郷への旅。そう。見たこともない故郷を探す旅に

・聖アウグスティヌスは母のもとに帰った。だが、オイディプス王には、帰るところはなかった。だから、オイディプス王もまた、物語の終わりの、そのあとに、旅に出た

・それは、もとなるところ、に帰るための贖罪の旅ではなく、ほんとうの故郷を探す未知にして普遍の旅

・「いつか、すべての苦しみから、ことごとく涙を拭ってくださる」。その言葉の意味を深く識る者は少ない。きっと、わからない。苦しみのなかにあったものが、わずかばかりうち震えるくらいのものだ

・村の掟を破ったことがないものはそのことを誇り、自らの罪を識ることなく。村の掟を破ったものはそのことを識り、自らの罪をも識る

・善き人の友は必ずオイディプス王であり、聖なる預言者ヨハネの首を斬ったサロメであり、法を冒した者共たち(穢れた者たち)

・「いつか、すべての苦しみから、ことごとく涙を拭ってくださる」。この言葉の意味を識る者は少ない。罪責のなかから涙するものも少ない。あらゆる人々は魔法か何かと勘違いし続ける(魔法とは、安心安全便利快適なその最新鋭の技術と当たり障りもないあらゆるもの)

・だから、放蕩息子、放蕩娘たちは、旅に出る。今度の旅は、最後の旅で、ほんとうの旅で、もう、戻ることのない旅

・猫さえ苦しむ。去性され病に侵され、死に絶える

・だから、放蕩息子、放蕩娘たちは旅に出る。もう、村には戻らない、旅に出る。父や母に別れを告げ、その、いつか死にゆく父や母にも別れを告げ、自らもいつか死にゆくものとして、まだ見知らぬ故郷に向かって未知なる旅に出る



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