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人生はドライブ、自分の車で運転せよ。『ドライブ・マイ・カー』はスゴイ映画だった。圧巻の一言。

行こう行こうと思いつつなかなか行けなかった『ドライブ・マイ・カー』だが、意を決して遂に鑑賞。

観る前は、3時間の長尺、予告編の雰囲気、カンヌ4冠などの情報から、何となく『地味だけど良作』『長いけどまあまあ良かったかな』くらいの評価で自分的にはふんわりと着地するのかと思っていたが、全く違った。

とんでもない傑作だった。

オープニングの30分こそ不穏なシーンが続いてやや不安がよぎるものの、あれよあれよという間に物語に引きずり込まれてしまう。そして訪れるラスト30分、家福とみさきの雪の中のシーンから、『ワーニャ伯父さん』での手話のシーンに至る怒涛のカタルシスときたら!『いや、アカンアカン、それは、それは反則やろ…』とこちらも必死で抵抗を試みるも、何度もこみ上げてくる嗚咽をどうしてもこらえ切ることが出来なかった。
この圧巻とも言える赦しと癒しの波状攻撃。まさかここまで感情を揺さぶられてしまうとは。いやもうマスクびちゃびちゃやがな…。

もし『村上春樹がちょっと苦手で…』というような理由でこの映画を観ることを躊躇している人がいるとしたら、それはもう勿体ないとしか言いようがない。村上春樹が苦手だろうが嫌いだろうが、これはそういうレベルの話ではない。これは地球上に住む全ての人類に向けて放たれた映画だ。そして多くの人が口を揃えて言っているように、3時間なんてあっという間だ。たぶん。

ちなみに観るならぜひ劇場で。劇場で椅子に縛り付けられながら観てこそ得られる『映画的体験』の至福度が今回は段違いに凄い。ラストの舞台のシーンなんてこれはもうほぼ『宗教的愉悦』と言ってもいいくらいだ。時に交錯し、時に重なり合う幾層の物語と緻密に練り上げられた脚本は、あらゆる視点と角度からの考察に耐えうるだけの強度を持っていると思う。

そしてエンドクレジットで立ち現れる『Drive My Car』の力強い文字。
これはつまり『人生はドライブ、自分の車で運転せよ』と言っているようにも思えた。

あと、これは今回の『ドライブ・マイ・カー』あるあるだと思うのだが、観たあとはもれなくチェーホフの『ワーニャ伯父さん』が読みたくなること必至なので、あらかじめブックオフなどで買っておくとよろしいかと。

自分ももれなく映画を観た帰りに紀伊国屋に寄ったのだが、新潮、岩波、光文社、全て売り切れでありましたから。ええ。

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