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あの頃くらさんは

岡の上から遠く街並みを望む。

カメラはパンしながらヒキからヨリへ。

そこにラフな恰好ながら紳士然とした男性が立っていて、おもむろに右手でサインを出しながら、にこやかに語りかける。

「やあ、くらさんだよ!」

「やあ、くらさんだよ!」

この説明で情景が脳内に浮かんだ人は、間違いなく同世代(昭和51年度生)かそれより少し上に違いない。

かつてNHK教育テレビ(現・Eテレ)で放送されていた「わたしたちのくらし」のオープニングである。

昭和54年度生の妻が知らないので、我々の世代が“くらさん”を知る最後の世代といって間違いではないだろう。

とはいえ、私が覚えているのもくらさんがなにやらハンドサインを示しながら挨拶するオープニングのシーンだけで、くらさんがどんなふうに何をするのかは全く覚えていない。
なんなら番組のタイトルさえも我らがGoogle先生に教えてもらわないとわからなかった。

逆に言えば、なんだかよくわからないハンドサインを示しながら挨拶するくらさんの姿は、当時の子どもにとってはかなり印象深かったということでもあるだろう。

それにしても、あのサインはなんなのか?

子どもの頃、あのサインは“くらさん”でしかなかった。

時は過ぎ、大人になった私は偶然知る。

あのサインが、「I Love You」のサインだと。

ぼくらのくらさんは、テレビの前のぼくたちに「愛しているよ」の想いを寄せて軽やかに挨拶してくれていたのだ。

くらさん、なんていい人なんだ。

番組の名前も忘れてたけど、

番組の内容はサッパリ覚えていないけど、

くらさんの愛だけは、今も胸に抱いているよ。

ありがとう、くらさん。

ぼくたちも愛しているよ。

そして、今度はぼくたちが、ハンドサインを示しながら、次の世代に愛を繋いでいくから。

「やあ、ただのおじさんだよ!」

世界のみんな、愛しているよ!

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