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堕ちた憧れ4(完)

3本や4本どころではなかった。
バイブに限らず、もっといかがわしい、何に使うんだというようなグッズ、写真集、DVD、后野先輩の裸ジャージがまだマシに思えるようなコスプレ衣装などが、隠そうとする様子もなく雑多に置かれ、羽柴先輩のエリアを侵食しはじめていた。
用具の手入れ、整理整頓なども手を抜かない、その人柄を絶賛していた記事を読んだのを、遠い昔のことのように思い出した。

「え、えぇと、3号? 4号? 多分この中のどれかだと思うのだけど」
戸惑いながら、羽柴先輩は似たようなグッズがいくつも放り込まれた紙袋を渡してくれた。
直接手に触れるのはさすがに抵抗がある様子だった。
「ありがとうございます。それでは、急ぎますので」
「ごめんね、後輩にこんなことさせないようにちゃんと言っておくから」
「言って改まるとも思えませんが」
つい出てしまったような自分の言葉に驚いた。
慌てて訂正しようとしたが、まるで自分のことを罵られたような、羽柴先輩の悲しい顔に息がつまった。

「后野先輩、本当は違うんですよね。本当はあんな人じゃなくて、その」
今さらのような質問が口をついて出た。
「もう私にも分からないの」
「そんな」
「前は私には弱音も見せてくれた。そうでなくても、あの娘のことは自分のことのように分かるつもりだったのだけど」
10も20も、一気に年をとってしまったような、疲れたため息。
「そんな風に信じ続けられることこそ、アリサには辛かったのかも。もういっそあの娘はあのまんまの人間だって思ってしまえたら、私もあの娘も楽なんじゃないかって気がしてる」
言って、先輩は窓の方へ顔を背けた。
後輩に泣き顔は見せたくないということだと分かったから、私はそそくさと部屋を辞した。

「わ〰️い、お帰り〰️。待ってたよ〰️、さながら忠犬ハチ公のよ〰️に。忠犬アリ公。いやぁ、銅像になるような名犬と一緒にしちゃいけないよね〰️、このクソビッチを。わは〰️」
トイレに戻るなり、后野先輩はそれこそ犬のように、私に飛びかからんばかりにはいよってきた。
そこはやはりかつての一級アスリートで、私が身をかわす間もなく、例の紙袋をひったくられた。
「そうそう、犬といったらぁ、あったあった〰️、ジャーン、尻尾バイブ〰️!」
紙袋の中をごそごそやって、犬の尻尾を模したらしいグッズを取り出す。
私が何を言う間もなく、というよりもう何を言う気にもなれなかったけれど、それを押し付けるや、後ろ向きでお尻を突きつけてくる。
「突っ込んで〰️、尻尾欲しいのぉ、アリサをワンワンにしてぇ〰️、ワンワン、ワォ〰️ン!」

形状からどこにどのようにすればいいかは簡単に察しがついたものの、はいそうですかと出来るものでもない。
どうしたものかおろおろしてしまった。
「おっそ〰️い、何でもしてくれるって言ったじゃんか〰️、ぶ〰️ぶ〰️、口ばっかりかよぉ、まったくこれだから処女はぁ」
「ビッチがそんなに偉いんですか!」
売り言葉に買い言葉とはこれだったろう。
言ったことと声の大きさに自分でもぎょっとした。

「あ、いいねぇ〰️、その目! ぞくぞくするぅ、感じちゃうぅ、もっと見下して、蔑んで、罵ってー、きゃー」
后野先輩のはしゃいだ声に、羽柴先輩の言葉が重なる。

「そんな風に信じ続けられることこそ、アリサには辛かったのかも」

「ごめんなさい、ごめんなさい、最低最悪最変態なドスケベドエムド淫乱でーす、生きててすみませんー」

「もういっそあの娘はあのまんまの人間だって思ってしまえたら」

「もう人間じゃないですー、だから犬です、犬になりますぅ、アイ・ワナ・ビー・ビッチドッグ、キャイ~ン」

「私もあの娘も楽なんじゃないかって気がしてる」

私もですか。
私も信じ続けちゃいけませんか。
憧れて尊敬したら、重荷ですか。
見放して、軽蔑して、そのままの先輩を受け入れないといけませんか。
その方が先輩は幸せなんですか。

「それじゃ行きますよ、くそ犬先輩」
自分でも驚くような冷たい声が出た。
そのお尻をわしづかみするように押し広げ、例のものを突っ込んだ。
考えてみれば、何のケアもなしにそんなことをしたのはまずかったのだろうが、さして抵抗もなく根本まで入っていった。
「さすが、鍛えられてますね、こんなにあっさり入るものなんですか」
「あ、あうぅ、すごいでしょ、アリサの開発済みアヌスぅ」
「えーと、このスイッチでいいんですか」
「ひゃああん、来る、来る、いいぃ!」
よだれを撒き散らさんばかりに絶叫し、トイレのタイルの上をのたうち回った。

「歌って、歌ってぇ、ビッチ・アリサのテーマソングぅ!」

♪アリサはかわいいビッチ犬
♪今日も発情まっさかり

即興だろうか、また少し歌詞が違う。

♪アリサはドスケベド淫乱
♪トイレでアンアンオナニーだ

釣られてなのか、自分からなのかよく分からない。
私も同じ歌を口ずさんでいた。

♪アリサは哀れなエム女
♪イッちゃうイッちゃう何度でも
♪アリサは底なしド変態
♪いつでもどこでも欲情中

歌に合わせて例の尻尾バイブのスイッチを入れたり切ったりし続けた。

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