びしょ濡れになったお札
詳しい年齢は忘れてしまったけど、
小学生の夏休み。父と兄と川遊びに行った時のお話。
その日は水遊びに最適な、よく晴れた暑い日だったので
周りには他の家族連れなんかもいて、
賑やかな川辺で私は兄と川遊びを楽しんでいた。
そのうち、緩やかな川岸の浅瀬に飽きた私たちは、川の向こう岸の岩場まで行くことを画策した。
途中、川の深みがあるので、兄が私を背負って泳いでくれることに。
・・・兄の泳ぎを助けるつもりで、私は手足をばたつかせた。
しかし、それが泳いでいた兄のバランスを崩すことになり、私は彼の背中から滑り落ち、溺れてしまった。
当時私は泳げたものの、足がつかない川の深さにパニックになった。
水の中で必死に兄にしがみつこうとして兄もバランスを崩し、今度は2人で溺れ始めた。
どのぐらいの時間が経ったのかは分からないが、気付くと父が助けに来て、私たちを川岸まで引っ張っり戻してくれた。
川岸で釣りをしていた父は、私たちが溺れている事に気づいてすぐ
近くにいた人に浮き輪を借りて、
着のみ着のまま川に飛び込み、助けに来てくれたらしい。
そのあと、今日はもう川遊びを辞めて家に帰ろうということになり、
私たちはびしょ濡れのまま車に乗り込んだ。
(タオルや着替えがあったかどうかは覚えていない。)
「何か飲み物買っていくか?運転中だからポケットから財布出して」
父のズボンのポケットからはみ出た財布を取り出すと、中までびしょびょに濡れていた。
溺れた時の恐怖感より、『びしょ濡れになったお札』を生まれて初めて見た私は、
「これまだ(お金として)使えるのかな...?」と心配したことをよく覚えている。
以後、20年以上経った今でも父はその話を得意げに話す。
「あの時お父さんが助けて無かったらお前たちは死んでたぞ〜」と
何度も同じ武勇伝を語りすぎてウザいぐらいなのだけど、
夏になると思い出す。
あの時びしょ濡れになったお札は、確かに私たちが助けられた証でもあった。
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