初有料記事!(時限公開・販売) タイトル:クオリア構造と情報構造の関係性を圏論的に理解する

以下に載せるのは、「認知科学講座」というシリーズ本をが東京大学出版会から刊行になる予定の本に載せる予定の私が執筆した一章です(いつ出版になる予定なのかは知りません)。

編集は以下の方々:横澤一彦さん(知覚)、川合伸幸さん(比較認知)、嶋田総太郎さん(身体性認知、認知神経科学)と鈴木宏昭さん(認知科学)。

本そのものは、3200円くらいになるらしいです。(一冊に以下のような章が8−9章あります)。特別に時間限定で有料公開させていただくことになりました! 

全部で3万5千語くらいあります。結構長いです。なので、数回に分けて、一回あたり200円で読めるように設定します。

出版より前に読んでみたい(preprint的に)、読んでコメントをつけたい、という方がおられるのかわかりませんが、試しにやってみます。この章を買って読んでみた結果、他の章も読みたくなって本全部を買っていただくことを祈っております。。。。

また、おそらく、4月あたりにこの記事は削除することになりますので、ご了承ください。

  1. 目次

    1. 背景 2

      1. 概要と結論 2

    2. 意識研究の概観 3

      1. 20世紀までの哲学の流れ 3

      2. 1990年代以降の意識の脳科学研究 4

    3. 現在の意識研究の主な方向性 5

      1. 意識の神経相関同定を目指すアプローチ 5

        1. 従来の意識の神経科学 6

      2. 意識の神経相関パラダイムにおける「クオリア」とは? 6

      3. 「クオリア」そのものの特徴とは? 7

    4. クオリア同士の関係性からクオリアを特徴づける:米田の補題 8

      1. クオリアを特徴づけるとは一体どういうことか? 8

      2. 圏論の初歩から米田の補題までの概説(圏論ミニマム) 8

        1. 圏とは何か? 8

          1. 圏の定義。 9

        2. 関手とは何か? 9

          1. 関手の定義。 9

        3. 自然変換とは何か? 10

          1. 自然変換の定義。 10

        4. ホム関手とは何か? 11

      3. 米田の補題からインスパイアされた色クオリア心理物理実験 11

      4. 色クオリアの圏Q 12

      5. 色クオリア心理物理実験データ 12

    5. クオリアと報告の関係性は「随伴」関係? 現象的な意識とアクセス意識の関係性への新しい見方とそこから生まれるあらたな実験パラダイム。 13

      1. スパーリング課題 14

        1. スパーリング課題 14

      2. クオリアと報告の関係性 15

      3. 「実数と≤」の圏Rは「整数と≤」の圏Zは2つの関手で関係づけられる。 15

      4. 「実数と≤」の圏Rと、「整数と≤」の圏Z 16

      5. 圏論における同じさとは? 17

        1. 圏論における異なるレベルの同じさ。Tsuchiya, Taguchi, Saigo 2016 Neuroscience Research より。 17

      6. 圏論が導入した「ゆるい同じさ」:随伴関係とは? 18

      7. 「実数と≤」の圏Rと、「整数と≤」の圏Zは随伴関係にある。 19

        1. 色クオリアのカテゴリタスクで随伴関係を考える 20

          1. 色クオリアの圏Qと、アクセスの圏Aをつなぐ、{色クオリアのカテゴリ報告課題関手Fと、クオリア推測関手G、そして自然変換t}の3つの組は、随伴関係を満たす。 21

        2. 意識研究に随伴関係を導入する利点とは一体何か? 21

        3. 随伴関係が証明できると、どうなるか? 22

    6. 結論と今後の方向性 22

      1. 米田の補題 22

        1. 色クオリア心理物理実験データを基にカントの批判を振り返ってみる 22

        2. 「不正確さ」の原因 23

        3. 量子認知モデルによるデータの解析 24

      2. 随伴について 24

        1. 構造の間の関係性 25

        2. 構造が同じとはどういう意味か? 25

        3. 数学的な同じさとは? 26

      3. 結論と今後の展望 26

背景

概要と結論

本論考では、我々が近年「クオリア構造」と呼んでいる、新しい意識研究のアプローチを説明し、より発展させることを目的とする。我々の新しいアプローチは、主観的な意識とそれを支える脳の関係性にアプローチするためには、「構造」的な理解が必須である、という提案である[土谷2021]。


構造の理解を目指した人文・科学的なアプローチとして、20世紀中頃、レヴィ=ストロースに始まる構造主義が挙げられる[橋爪]。構造主義的な手法や考えは、哲学の流れの中で、一部意識研究に取りれられてきた[goodman, lee, rosenthal]。しかし、これを実証的な意識研究に載せるためには、大幅なアップデートが必要である。我々のクオリア構造アプローチでは、20世紀中頃以降に発展した「圏論(けんろん)」という数学の手法を使うことを提案する[Tsuchiya, Taguchi, Sagio 2016]。圏論とは、数理的に「構造」を解析するために発展した数学の分野である。


2章でこれまでの哲学的な流れの中でどのように意識と脳の関係性が論じられてきたかを概観した後、3章で1990年以降に主流になってきた脳科学による意識へのアプローチを短く解説する。


4章では「関係性」に主眼をおく圏論の大きな成果である「米田の補題」を使ってクオリアを特徴づける、というアプローチとそれに基づいた心理物理学パラダイムを紹介する。


5章では、「随伴関係」という、圏論によってはじめて定式化された重要な概念を紹介する。随伴という概念により、意識研究では重要な問題である「クオリア」と「報告」の関係性を概念的に整理することを試みる。具体的には、クオリアと報告は随伴関係になっている可能性を提案する。この概念的整理により、これまでの研究に新しい解釈が与えられるだけでなく、これからなすべき新しい研究の一つの方向性を示す。


最後に米田の補題と随伴概念が、… 

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