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頭の中の引き出しと、まっさらなアイデア


商売も長くやっていると、その時その時の決断がずい分やりやすくなった。

これまでの経験値があるので、
どうすればいいのか、頭の中の引き出しからいろんなものが出てきて、
掛け合わせて、答えが出てくる。
ちょうど、冷蔵庫の中を見て、
そこにあるものでちょっと洒落たディナーが出来上がるような・・・。

何でも長く続けるというのはこういうことなのかと思う。

けれど、同時に既存の引き出しだけに頼らずに、
新しい可能性にも心をオープンにしておくのは大事なこと。
それなしには面白さも、発展もなくなってしまう。

これまでの経験では「1」と応えていたものを 
あえて相手の「2」に譲ることもある。
けれど、その2つを合わせて出てきた、目新しい「3」という解答はいつも、私をわくわくさせた。

「人」相手の商売では、
引き出しから出てきたものだけでなく、直観を大事にする。
あまり考えすぎないことだ。


まだ、夫が店に出ていたころだから、7、8年近く前になるだろうか。
若い男性が履歴書を持って現れた。


皿洗いで構わないから雇ってほしい。


痩せた、優しそうなまだ20代前半か、10代後半にも見えた。
(こちらの履歴書には、写真の添付も生年月日、年齢も必要ない)。


それは、ちょうど私と夫が揃って、テイクアウトの店内で話しをしていた時だった。そんな風に二人が揃っているときに現れる人には、たいていラッキーなサインがある、ということをこれまでの体験で知っていて、それが私たちの引き出しの中にあった。

二人で履歴書を見ながら言った。

「あなた、あそこのレストラン(近所にある)、つい最近辞めてるね」

彼はとても恥ずかしそうに言った。

「何回か遅刻したんです。
それでクビになりました。
でもそれ以外はちゃんと働いていたので、
もし必要だったら、そのレストランのオーナーに電話してもらっても構いません」

夫は面白そうに彼を眺めて言う。

「遅刻はメジャ-な問題だね、
でも、そういう経験をした後の君は、もう新しい君なんだろう?
そんな前のことは僕らも忘れるから、
この土曜日に仕事においで。」

そんな簡単なやりとりで、ラッキーにも彼は仕事を得るチャンスを得た。
遅刻には、もちろん私たちだって賛成しないが、二人がいるときに彼が現れたことを、私たちは重視した。

それなのに、

彼は当日、10分も遅れてやってきた。

「5時10分、っていう約束だったっけ?」

あまりの展開に夫は、逆に自分のほうを疑って、彼にたずねた。

「いいえ、5時です。すみません、遅れました。」

「そうか。
次に仕事をもらったら、初日くらい絶対遅刻するんじゃないよ、
もう帰っていいよ。」

そしてあっけなく彼は仕事を失った。


引き出しは、その都度、鮮度を確かめて、もう役に立たないと分かれば破棄してしまう。
疑ってみることは重要。
いつまでも自分にそぐわない価値観やアイデアを持ち続けることほど、害になるものはない。

けれど、「人は変わる(成長)する」、という引き出しは私たちがいつも使うものだ。
でも、人の成長にはとても時間がかかることもあるし、もちろん私たちの都合通り、というわけにもいかない。
そして、変わらないからといって、誰も、誰かを責めたりできない。

いつだってコントロールできるのは、
それに対して自分自身がどう考えて、どう行動するか、働きかけるかだけだ。

起こった出来事に対して、自分が与えた意味を、私たちは経験していくのだから。


過去も未来もまっさらにして、
出来事も人も、
生まれたての視点で見ていくことを、
経験とともに増えていく、引き出しと一緒に持ち合わせて仕事ができるのは、私に大地と天空の両方を、味方につけている気分にしてくれる。


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